日本電産が「電気自動車(EV)シフト」を鮮明にしている。
2025年度の連結売上高を4兆円に引き上げる中期経営計画をまとめ、その一環としてEV向け駆動用モーターの分野で台湾の鴻海科技集団と合弁会社設立を検討することも公表した。カリスマ経営者としてしられる永守重信会長の戦略が鮮明になった。
2021年7月21日に発表した中期経営計画は、永守会長がかねて掲げる売上高「30年度10兆円」の経営目標の中間目標という位置づけになる。
進むEV化、高まる基幹部品の需要
経営計画の具体的中身をみる前に、EVをめぐる自動車業界の変化を押さえておこう。自動車といえば、下請けから部品を調達し、完成車メーカーが組み立てるのが基本だが、近年は「モジュール化」といって、部品を機能ごとの塊(モジュール)にして納入させ、メーカーが組み立てるようになってきた。これをモジュール化(あるいはブロック化)と呼ぶ。モジュールごとに、分業や外製化ができるので生産効率を高めることができるとされる。
つまり、部品メーカーでも上位の大手が2次下請け、3次下請けから部品を集めてモジュール化してメーカーに納入するわけで、部品大手の能力がメーカーの競争力を左右することになる。
EVではモジュール化が顕著で、既存の部品大手だけでなく、新規参入組も交えた競争が激化。心臓部の動力装置の外部調達が始まっている。その代表が「eアクスル」と呼ばれるモーターやギアを一体化した動力装置だ。
EVの航続距離や走行性能に直結するもので、大手メーカーは内製を軸としクルマづくりの主導権を譲らない構えだが、外部調達に乗り出すところも出始めた。
たとえば、現代自動車グループ(韓国)は2023年から生産する小型EVの動力装置を米部品大手ボルグワーナーから調達すると伝えられている。自動車業界以外のITや電機業界からEVに参入する動きがあり、「eアクスル」などの基幹部品の需要は高まると予想される。
「EVに勝負をかける」と宣言
そこで日本電産の経営計画だが、すでに中国にeアクスル工場を設け、広州汽車集団や吉利汽車に供給を始めているが、25年度にeアクスル280万台分の出荷を目指すとした。これを含む自動車向けの車載事業全体の売上高を20年度の約3.6倍の1兆3000億円に引き上げ、主力事業に育てる。eアクスルはうち3000億円程度を占める見通しという。
このほか、既存事業の売り上げを伸ばすほか、M&A(企業の買収、合併)にも力を入れるとして、25年度までの5年間で設備投資と合わせて計1兆円を投じることも盛り込んだ。
「eアクスル」の強化では鴻海との協力がポイントになる。すでにその共同開発に取り組んでいて、2022年中に合弁会社を設立し、生産や販売面でも協業を目指すことを、経営計画発表の中で表明した。
鴻海は20年10月、EV用車台(プラットフォーム)生産に乗り出す方針を表明しており、かねてからEV参入がうわさされる米アップルなどの動きをにらんだものとして、注目されている。日本電産としては、その鴻海といち早く組むことで、モーター供給先として取り込む狙いがある。
日本電産といえばパソコン普及の過程でハードディスクドライブ(HDD)用モーターの需要を獲得して成長した成功体験がある。今回の計画の目標年度となる25年ごろは、EV市場の拡大が一段と加速する時期とみられ、EVに勝負をかけることを宣言したということになる。
計画の実行は、日産自動車からヘッドハンティングされる形で20年に就任した関潤社長(21年に最高経営責任者=CEO兼務)が担う。ポスト永守時代をにらんで、まさに手腕が試される。(ジャーナリスト 済田経夫)