「論語と算盤」と二刀流
日本の近代化をけん引した民間企業創業の祖ともいえる渋沢栄一は、企業経営者にとっては立ち返るべき原点に立つ人であり、その著書「論語と算盤」はまさしく祖が記した企業経営の基本の心であると言えるのでしょう。
コロナ禍において渋沢のこの書は、経営的に苦しい中で利益を生み出すことに焦って道徳心に欠ける行動に出てしまっていないか、自己のビジネスが社会的存在であることを忘れ公益という考え方に目をつぶりがちになってはいないか、と語りかけているように思います。
さて、大谷翔平選手の話。栗山監督はなぜこの元祖ビジネス書を彼に読ませたのでしょうか。表面的には「論語と算盤」という相容れない二つのことをいかにして両立させるのか、という二刀流の極意について偉人の教えから何かヒントを得よということだったのかもしれません。
しかし、何事にもまじめに取り組む大谷選手は、この書から渋沢の真意である道徳心や公益優先といった考え方を学びそれを彼の行動に取り入れることで礼儀正しさや謙虚な姿勢に磨きがかかり、国籍、年代、性別を問わぬ多くの味方や支援者を得て、故障・手術・リハビリという苦難を乗り越え今の栄光をつかんだのだと思います。
野球といえども、プロである以上それはビジネスです。東京学芸大卒で教職免許を持つ球界きってのインテリでもある栗山監督は、ビジネスの基本を学ぶことが、大谷選手がビジネスの坩堝(るつぼ)でもあるアメリカメジャーリーグでの成功につながるだろうと、恐らくそこまで考えたうえで彼にこの書を薦めたのでしょう。
「論語と算盤」が「基本のキ」を教えるビジネスにおける原点を記した書であるがゆえ、あらゆるビジネスを成功に導く万能の書であるのはないでしょうか。
(大関暁夫)