米メジャーリーグ、ロスアンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手が、今シーズン投手と野手の「二刀流」で大活躍をしているのはご存じのとおり。彼の動静がさまざまな形でメディアに取り上げられる中で、その愛読書として渋沢栄一の名著「論語と算盤」が紹介されていました。
なんでも、北海道日本ハムファイターズの一員としてメジャーリーグを目指していた頃に、「二刀流」育ての親でもある栗山英樹監督から、この本を勧められたのだといいます。
社会の利益を考える「渋沢思想」
「論語と算盤」は1916(大正5)年に、渋沢栄一の思想の集大成としてまとめられたものです。時は我が国が近代化に進んだ動乱の明治時代を経て、日清、日露戦争に連勝し好景気と世界の列強入りという自負から、浮かれぎみの風潮が漂っていました。
当時のビジネス界では、立身出世、金もうけ主義がまかり通っており、渋沢の書はそんな時代の風潮に一石を投じ、浮かれたムードを諫め、本来あるべき事業への取り組み姿勢を明示したものだったのです。
その趣旨を簡単に紹介すると、渋沢の主張は大きく二つ。一つは、道義を伴った利益を追求せよということ。道義とは人が行なうべき道徳を伴った道筋のことであり、すなわち人の道から外れる商売はしてはいけない、ということになります。
今一つは、自分の利益に偏ることなく社会の利益である公益を伴うビジネスをしなさいという主張です。企業は社会的存在であり、ビジネスを通じて社会貢献をするということを常に念頭に置おいて企業活動をしなさい、ということです。
渋沢氏は我が国近代資本主義の父とも言われており、国立銀行をはじめとして600近い企業の設立にかかわっているのです。すなわち、明治の産業勃興期に立ち上がった多くの企業は渋沢の考え方を取り入れて起業したわけで、これらの企業が今に至る多くの日本企業の源流に位置するものと考えると、今も企業が掲げている経営理念や社訓といった自社の社会的存在意義を示した文言の多くは、渋沢の思想の影響を受けたものとも言えるのです。