「TOKYO 2020」のレガシーになるのは何? 大会を陰で支える裏方に光を当てた一冊【8月も応援! 五輪・パラリンピック】

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   東京五輪・パラリンピックが2021年7月23日に開会式を迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期され、いまなお世界各地で猛威を振るっている中での開催に、さまざまな議論が巻き起こっているが、アスリートの大活躍にお茶の間は沸いている。まだまだ選手に応援の声を届けたい。そう思っている人は少なくないはずだ。

   そんなことで、8月もオリンピックとスポーツにまつわる本を紹介しよう。

   1964年の東京オリンピックが残したレガシー(遺産)には、グラフィックデザイナー、亀倉雄策がデザインした大会エンブレムとポスター、ドキュメンタリー映画「東京オリンピック」などのほか、東海道新幹線、首都高速道路、東京モノレールなどのインフラが挙げられる。

   2021年の今大会は何を残すのか? 本書「新TOKYOオリンピック・パラリンピック物語 」が選んだのは、スポーツマーケティング、大会の公式服装とポディウムジャケットに使用された新合繊、総合警備(統合監視)システム、顔による生体認証システム、自動運転とMaaS(効率的な人の移動システム)、光による通信技術を使った超高臨場感体験、競技場で流れる観客が参加する音楽、「未来ゾーン」と名づけられた子どもたちへ向けてのプログラムの8つだ。大会を陰で支える裏方に光を当てた本である。

「新TOKYOオリンピック・パラリンピック物語」(野地秩嘉著)KADOKAWA
  • 「TOKYO 2020」が残すレガシーは何か?(写真は、新国立競技場)
    「TOKYO 2020」が残すレガシーは何か?(写真は、新国立競技場)
  • 「TOKYO 2020」が残すレガシーは何か?(写真は、新国立競技場)

日本選手団の公式服装をつくったAOKI

   著者の野地秩嘉さんは、ノンフィクション作家。著書に「トヨタ物語」などがある。2011年に前回東京大会を支えたレガシーを取り上げた「TOKYOオリンピック物語」を出し、ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した。

   本書は、野地さんが今大会のレガシーになるだろうと予想した8つのモノやシステムなどを取り上げたものだが、その中から印象深いいくつかを紹介しよう。

   1600人を超える日本選手団の開会式用の服装と式典用の公式服装、審判団などテクニカルオフィシャル5500人のユニフォームをデザインし、つくったのは、紳士服の量販店で知られるAOKIだ。

   開会式用は男女とも白のジャケット赤のパンツで、女子はパンツの他、キュロットのタイプもある。いずれもポリエステル100%である。ポリエステルといっても、昔の安っぽいものではない。進化したポリエステル素材だ。ウールとほぼ価格は同じで、AOKIで売っている東京2020オリンピックエンブレムスーツは税込4万2900円だが、素材をウールに替えたとしても値段はさほど変わらないという。

   創業者の青木拡憲さん(現・代表取締役会長)が1964年10月15日、旧国立競技場で男子100メートルの決勝を見ていたことを紹介している。当時、背広の行商をしていた。「いつか商売を成功させて、オリンピックの選手や審判団の服を作りたい」と思った。その夢を実現すべく、今大会の公式服装のコンペに挑み、勝ち取ったのである。

   公式服装を作成するうえで、大切なのは採寸だ。全社員5000人から300人を選抜した。1600人の代表選手たちの採寸に臨んだ。しかし、コロナ禍で大会は1年延期に。あらためてやり直した。

   実際に選手のサイズを測ると、課題が出てきた。選手たちの体型はいずれも一般人の標準体型とはかけ離れていたからだ。必ずどこかの筋肉が発達している。通常体型の型紙は使えず、一人ひとり採寸をしたうえで、型紙もそれぞれ作った。

   青木さんは、こう語っている。

「コロナ禍で時計の針は10年進んだと思います。洋服のカジュアル化はその前から始まっていましたから、コロナ禍ではそれがいっそう進んだわけです。しかし、時計の針が進んだとはいえ、スーツはなくなりません」

   コロナ禍でスーツの売り上げが落ちる中、AOKIがあの公式服装をつくったという話は記憶に残りそうだ。

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