新型コロナウイルス感染症の新規感染者が東京都で5000人を突破。デルタ型変異ウイルスの容赦のない攻撃に手を付けられない状態だ。
そこで飛び出したのが「ロックダウン(都市封鎖)」を日本にも導入する議論を始めてはどうか、という意見。政府の新型コロナウイルス分科会の尾身茂会長が言及したのだ。
「緊急事態宣言など何の役にも立っていない」
というわけだが、インターネット上では「コロナ対策責任者の一端を担う、あんたが言うか!」と猛反発が起こっている。
尾身茂会長「緊急事態宣言はもう効果がない」
政府の新型コロナウイルス分科会の尾身茂会長の「ロックダウン待望発言」は2021年8月5日、政府の基本的対処方針分科会で、まん延等防止措置を8県に追加する政府方針を了承した後に飛び出した。
会議室から出て来た尾身会長が、記者団に会議の内容を説明する過程で、「(政府方針の)趣旨は理解したが、今宣言を出しているところでさえ期待されている効果が出ていない」と語る中で、ロックダウンに触れたのだ。
朝日新聞(8月6日付)「尾身氏『ロックダウン法制化の議論も』 感染拡大続くなら」が、こう伝える。
「尾身茂会長は8月5日、感染が爆発的に広がる現状を脱せない場合、ロックダウン(都市封鎖)の法制化に向けた議論をせざるを得なくなるとの認識を示した。記者団に『ロックダウンみたいなことを、法制化してくださいというようなことさえ議論しなくちゃいけないことになる』と述べた。
現状について尾身氏は『緊急事態宣言を出しても、もう期待される効果がない』と指摘。『関東地方ではどんどん感染の拡大スピードが上がって、医療のひっ迫がかなり厳しい状況だ』としたうえで『にもかかわらず、メッセージが伝わらない』と危機感を示した」
ロックダウンをめぐっては、全国知事会が8月1日にテレビ会議を開き、お盆の帰省を含め夏休み中は都道府県境をまたいだ移動を原則として中止・延期とすることを国民に呼び掛けるよう国に求める提言をまとめた。 その中で、感染防止対策の実効性を上げるため、さらに強い措置として「ロックダウンのような手法の在り方」の検討を要請した。
しかし、政府は導入に否定的だ。菅義偉首相は7月30日の記者会見で、「ヨーロッパをはじめロックダウンをしても、なかなか出口は見えなかった」と効果に疑問を呈し、「やはりワクチンだ。日本においてロックダウンという手法はなじまないと思う」と述べている。
田村憲久厚生労働相も8月3日の会見で「欧米並みの罰則、場合によって逮捕も含めて行うなら、かなり私権を強く制限する法律になる」と、憲法上の問題がからむため、反対の姿勢を鮮明にしている。
朝日新聞は、
「尾身氏自身も今年6月には『他の国のようにロックダウンできるわけじゃない』と語っていた」
として、つい最近まで「反対」だったと書いている。
しかし、尾身氏の発言には、さっそく援護射撃する医療専門家が現れた。日本医科大学の北村義浩特任教授だ。スポーツ報知(8月6日付)「東京感染5000人超、ロックダウン法制化議論すべき... 日本医大・北村義浩特任教授」の取材に応じて、こう語ったのだった。
「8月下旬には(東京都の新規感染者は1日当たり)1万5000人を超えているかもしれません。尾身(茂)会長のおっしゃるとおり、実際にやるかやらないかは別としてロックダウンの法制化を議論すべき時にきています。(最初の緊急事態宣言時から)今まで500日間も議論されなかったことが驚くべきことで、いざやるとなっても半年くらいかかるだろうなと思ってしまいますけどね......。
五輪の影響で増えたのではなく、むしろ影響が出そうなのは今週末(編集部注:8月7日)くらいから。五輪が開幕したことで『自粛からお祭りへ』という『楽観バイアス』が生まれ、緩みにつながったことは考えられるので。まん延防止等重点措置の対象地域に8県が追加されましたが、もうツールとして機能していません。むしろ『宣言が出る前に(楽しもう)』という人を生むだけです。『あ、黄色信号だ』と思ってスピードを出すクルマのように。逆効果かもしれません」
と、まん延防止等重点措置の8県追加など、まったく逆効果だと指摘したのだった。
違反者を警官が殴打するインド、罰金44万円のフランス
「ロックダウン」については、自民党内からも「論議すべきだ」という声があがっている。下村博文政調会長が中心になって、活発に動いているのだ。下村氏の狙いを朝日新聞(8月2日付)「下村政調会長、ロックダウン 積極的に議論すべき」が、こう書いている。
「下村博文政調会長は8月2日、全国知事会が政府にロックダウンのような移動制限の手法のあり方を検討することを求めたことについて、『国会で積極的に議論すべきだ』と述べた。下村氏は、自民党が改憲4項目の一つに緊急事態への対応強化を掲げていることにも触れ、『緊急事態条項の中には、このパンデミックも入れるべきだと今までも主張してきた』と強調。憲法改正を含め、ロックダウンを可能とするための法整備について次期衆院選で『自民党としてしっかりと訴えていくべきだ』と語った」
次期衆院選の公約にすべきだというわけだ。
ところで、諸外国のロックダウンとは、どのような規制を国民に強いているのだろうか。
東京新聞が、昨年(2020年)3月に日本で初めて緊急事態宣言が出されたおりに、外国の例を調べて「新型コロナ:都市封鎖、各国に差 外出で罰金、逮捕も 東京はどうなる?」(2020年3月28日付)という記事にまとめている。
それによると、各国の事情はこんな案配だ(昨年3月当時)。
◆ フランス=必需品の買い物と通院を除き移動禁止。外出には許可証が必要。「健康のための運動」は自宅から1キロかつ1時間以内。警官や憲兵隊が違反者を取り締まる。悪質な累犯者には罰金は約44万円。2人以上が立ち話をしていると警官が許可証を確認、「運動は1人で、立ち止まるな」と注意。
◆ ドイツ=公共の場で家族や同居人以外が3人以上集まることを禁止。他者との距離を最低1.5メートルあけるよう指示。公園は閉鎖、飲食店は持ち帰りか配達のみ。 ◆ 英国=全国民に自宅待機を命令。外出制限違反は罰金4000円。生活必需品を扱う店を除いた商店や娯楽施設、飲食店は閉鎖されたが、公園は開放。
◆ 米国=50州中22州で不要不急の外出、出勤、集会が禁止。規制は州ごとに「自宅待機令」や「屋内退避令」などさまざま。買い物や通院、散歩のための外出のほか、食料品店や治安当局、医療機関など「必須」の仕事は除外する例が目立つ。ニューヨーク市はレストランの店内営業を禁止。飲食業界やエンターテインメント業界が大打撃を受けた。
◆ フィリピン=午後8時~午前5時の夜間外出禁止令。日用必需品の買い出しは家族1人に限り認める。違反すると逮捕の可能性も。
◆ インド=日用品買い出しや通信、インフラなどの一部事業活動以外は全土で外出禁止。違反者たちが警官隊に棒で激しく殴られる映像が世界中に流れて物議に。
◆ ヨルダン=外出禁止の指示を破り外出していた1600人以上が逮捕され、パンや医薬品、燃料を配給制に。
◆ トルコ=不満を煽るような内容をSNSに投稿した410人を拘束。
こうした内容の「ロックダウン」が日本でできるのだろうか――。
私権制限ではなく国民の生存権を国が保障できるかだ
インターネット上では、圧倒的多数が反対の意見だ。
「今さらロックダウンは厳しい。ロックダウンしでも収入に影響がなければ仕方ないが、影響がある身としては勘弁してほしい。コロナより無職のほうが怖い」
「ロックダウンの本当の問題は、私権制限ではなく期間中の国民の生存権を国が保障しなければならないということ。緊急事態宣言中でも無理なのに、いまの政府に国民全体への手厚い経済補償ができるのだろうか。結局、政府がその責任を負いきれるかと言うことだ。無理だよね」
「危機管理能力ゼロの日本政府に、強力な権限を持たせるのはどうかと思います」
「ロックダウンが必要との風潮はとても危険です。政権がコロナ感染大爆発まで何もしなかったのは、このタイミングを待っていたとも考えられます。これをチャンスに憲法改正に突き進むのです。この事態は政権にとってはハッピーなのです。国民の自粛だけでは、感染は抑えられない。ロックダウンが必要だ。これができないのは現行憲法のせいだ。感染拡大を抑えるためを主な理由にすれば、国民も憲法改正に反対できないと...」
ロックダウン待望論が医療専門家から出ることに対して、猛反発が多かった。
「いまロックダウンの議論より『医療体制』の議論が最優先であるはずだ。飲食店などの事業者、そして個人にも強制力のある法律を作るのであれば、開業医を含めて医療機関にも同等の厳しい法律は必要。病院経営上の理由でコロナ患者を入院させないのは違法、また強制的に受け入れ態勢を整わせる法律など。ロックダウンよりもコロナ治療に協力しない病院の体制を整えるほうが医療のひっ迫回避に直結するのだから、そっちを先に議論すべきだ」
「医療専門家は、感染拡大のことしか頭にない。国民皆保険制度に守られているから、食いっぱぐれることがなく、無責任なことがいえる。こちらは生活がかかっています」
「ロックダウンなど私権制限の法整備は必要だと思うが、併せて医療受け入れ体制の法整備も必要だ。多くの医療従事者の頑張りには頭が下がるが、まだコロナ患者の受け入れに消極的な病院が多いと聞く。理由の一つとして、小規模病院が多く、一般患者とのゾーニングが不可能だと。しかし休日診療のような当番制のように、軽症コロナ患者の担当当番制などすれば、協力可能にならないか。今回のような有事の際は、知事が医師会に指示、命令を出せるように法整備すべきだ。私権制限はそれとセットで検討すべきだ」
(福田和郎)