2021年8月5日、東京都の新型コロナウイルス感染症の新規感染者がついに5000人を突破した。
デルタ株の大暴れの前になすすべもないのか。そんななか、新型コロナウイルスのやっかいな性質が浮き彫りになっている。ワクチンをしっかり2回接種しても罹患する「ブレークスルー感染」があるというのだ。
いったい、どんな恐ろしいものなのか。
ワクチン接種したのに感染した医師の「闘病動画」が話題
ワクチンを2回接種したのに新型コロナウイルスに罹ってしまう「ブレークスルー感染」。その恐怖体験を自らyoutube動画で発信した人がいる。東京都内に住む精神科専門医であり、YouTuberとしても活動するメンタルドクターSidowさんだ。2021年7月24日、自身の動画サイトに「コロナ闘病記」を公開した=写真参照。
動画の冒頭、Sidowさんは、
「コロナウイルスに感染しました(ネタで釣りでもありません。)ワクチンも5月中に2回接種を済ませていましたが40度まで発熱しました」
と語り、闘病記を綴っていく。
ファイザー社製のワクチンを4月19日と5月10日に接種した。体調の異変に気づいたのは7月22日朝。
「起きてからなんとなくだるく、食欲もなく、昼食が通常の半分しか食べられませんでした。夕方頃から身体に熱感があり、〈これはおかしい〉と熱を測ったところ39.9度まで上昇していました」
翌朝も熱が38.1度あるため、東京都発熱相談センターに連絡。医療機関を紹介もらおうとしたら、都の感染者数が3000人を超えた大混乱の日。その医療機関が別の医療機関の検索サイトを紹介するありさま。やっと隣接する区の医療機関に電話がつながったのだが、
「『公共の交通機関を使ってはいけない、タクシーもダメ。徒歩で来るように』と指示されました。数キロの道のりを歩くのは相当しんどい。独身なので車で送ってくれるパートナーもいなくて、両親に車で医療機関まで送ってくれることに。紹介された医療機関に到着して、受付をしようとしたところ〈本日は混み合っているから診察は受けられない〉と門前払いされました」
というありさま。
途方に暮れたが、〈まずはコロナかどうか調べたほうがいい〉と思い直し、友人の医師の内科クリニックでPCR検査を受けた。すると、なんと陽性ということが判明。7月23日夜、保健所から、
「しばらくは自宅療養かホテル待機になるので、今後もこちらからの連絡を待つように」
という連絡が入った。
24日、25日も2、3回保健所から連絡があり、体調と熱について尋ねられたが、熱が上がったり下がったりを繰り返したため、保健所の指示も「入院で調整します」「ホテル療養で考えます」と二転三転。どちらも混み合っているから、入れるとしても27日以降になるとのことだった。
結局、27日に保健所から送迎の車が来てくれて、やっとアパホテルに移動となったのだった。
予想外のコロナ罹患から療養先決定までのドタバタを体験したSidowさんが感じたことは――。
「医療機関のほか、療養先となるホテルとの連携も十分ではないと感じました。せめて受診前に混雑状況が確認できるか、必ず診察してもらえる施設がわかれば助かると感じました」
しかし、コロナになったとはいえ、ワクチン接種をしていてよかったと実感したという。
「正直なところワクチンを打たずにコロナに罹患したらどの程度症状が重くなっていたかは想像できません。40度近い発熱は十分つらかったですが、咳や咽頭痛や嗅覚味覚の低下などほかの症状は目立たなかった。その辺りはワクチンのおかげで比較的軽度で済んでいたのかもしれません」
Sidowさんの動画には18万件近いアクセスがあり、こんな書き込みが寄せられている。
「動画を見てびっくりしました。明日は我が身だと思い、気を引き締めたいと思います。勇気を出して投稿してくださってありがとうございました」
「私は恥ずかしながらワクチンを打ったら少し人と合う機会を増やそうと思っていたので、大変いい教訓になりました。今の賑やかな連休ムードやワクチン後も、変わらず感染対策はしっかりしたいと思います」
「公共交通やタクシーNGは分かるけど、高熱あるのに歩いて行くとか、かなり無理ある。Sidow先生みたいに友人の病院で検査して貰おうとか思いつかない人はどうすればよいのだろう。改めて感染対策の大切さが身に沁みました」
「ワクチン2回打っていたら症状が軽いと聞きましたが、そんなに高熱が出るのですね...。ご自愛ください」
コロナ患者搬送の救急隊員が発症したケースも
日本の「ブレークスルー感染」の状況については、国立感染症研究所も調査結果を公表した。NHKニュース(8月2日付)「コロナワクチン接種後に感染『ブレークスルー感染』どうすれば?」が、こう伝える。
「新型コロナウイルスワクチンの接種を終えてから免疫が完全につくまでには14日かかるとされます。海外では、そのあとに感染が確認される事例がまれに報告され、『ブレークスルー感染』とも呼ばれています。国立感染症研究所が、自治体や医療機関からの報告をもとに初めて調査を行った結果、4月1日~6月30日の3か月間に合わせて67人の感染が確認されました。79%が20代から40代で、重症者はいなかったということです。
ウイルスの遺伝子を解析できた14例をみると、12例がイギリスで確認された変異ウイルスの『アルファ株』。2例がインドで確認された『デルタ株』。国立感染症研究所は、
『ワクチンの有効性の高さを不定する結果ではないが、二次感染を起こすリスクもあり、接種後も感染対策を続けることが重要だ。また、医療機関なども、症状から感染が疑われる場合は積極的に検査を行う必要がある』
とコメントしています」
長野県でも8月3日、阿部守一知事が県独自の「ブレークスルー感染」の調査を発表した。地元メディアのSBS信越放送(8月3日付)「ワクチン接種後に感染42人に 6人は2回接種後の『ブレークスルー感染』」が、こう伝える。
「きょう開かれた県の対策本部会議で報告されたもので、今年4月1日から7月27日までに感染した2361人のうち、42人が新型コロナワクチンの接種後に陽性と診断されたということです。このうち6人が2回目のワクチン接種が終わって2週間以上が経過したあとに発症する『ブレークスルー感染』でした。
阿部知事は『ワクチン接種が済んだ方もマスク着用をはじめ基本的な対策は講じてもらうことが重要』と注意を呼びかけています。一方、デルタ株に感染した人の割合は、1か月前はおよそ35%でしたが、直近1週間ではおよそ70%にまで上がっていることも報告されました」
具体的にはどんな人が「ブレークスルー感染」をしてしまうのか。読売新聞(8月1日付)「コロナ患者搬送業務の消防隊員が感染...接種完了後の『ブレークスルー感染』か」は、こんなケースを紹介している。
「茨城県常総地方広域市町村圏事務組合消防本部は7月31日、新型コロナ患者の搬送業務に携わる20歳代の男性消防隊員が感染したと発表した。4月までに米ファイザー製ワクチンの2回接種を終えていたという。『ブレークスルー感染』とみられる。隊員は7月29日に37度の発熱やだるさを訴え、31日に陽性が判明した。直近に都内との往来はなく、感染経路は不明。新型コロナ患者の搬送にも従事していたが、同本部は『感染対策を徹底しており、患者から感染した可能性は低い』としている」
感染経路がよくわからないという点では、普通のコロナの感染とそう違いはないようだ。
米国の謎のクラスター「7割以上がワクチン接種済み」
米国ではコロナ対策の先頭に立つ疾病対策センター(CDC)が、米マサチューセッツ州で発生したクラスターを調査したところ、感染が判明した469人のうち約7割がワクチン接種済みだった。このうち133人から採取した検体を調べたところ、9割がデルタ株だったという。
この米マサチューセッツ州のクラスターの調査から「ブレークスルー感染」と「デルタ株」との関連を米メディアが盛んに取り上げている。
CNN(7月30日付)「CDC shares 'pivotal discovery' on Covid-19 breakthrough infections that led to new mask guidance」(CDCは、新型コロナのブレークスルー感染に関する〈極めて重要な発見〉が新しいマスク着用ガイダンスを生み出したという)が、デルタ株の謎の性質を伝える。
ことの発端は、米マサチューセッツ州プロビンスタウンで起きたクラスターだった。7月4日のお祭り騒ぎがきっかけとなり、7月20日までに469人の感染が確認された。ところが、そのうち346人(74%)が完全に2回のワクチン接種を終えていた。さらに、このうち79%がデルタ株に感染していた。そして、明らかにワクチン接種を終えた人と、接種を終えていない人、あるいは受けたかどうか不明の人との間で、「ウイルス負荷」(編集部注:ウイルスの影響を受ける度合い)が類似していたというのだ。
つまり、デルタ株の場合、ワクチンを接種していても、接種していなくても、他の人にウイルスを感染させる「能力」はあまり変わらないということらしい。なぜブレークスルー感染が起こったかのメカニズムはCDC(米国疾病管理予防センター)もわからないという。
CNNはこう報じる。
「この新しい研究は、デルタ株が感染した場合、予防接種を受けた人と予防接種を受けていない人々に、同様の量のウイルスを産生したことを示している。予防接種を受けた人でもマスクを着用することを推奨する連邦ガイダンスの重要性を示している。予防接種を受けた人が、予防接種を受けていない人々にウイルスを広める危険性を持っているからだ。CDCのロシェル・ワレンスキー博士は『デルタ株の高いウイルス負荷は伝染のリスクの増加を示唆し、デルタに感染したワクチン接種者がウイルスを伝染させることができるという懸念を提起した』と声明で述べた」
ワレンスキー博士は、ワクチンを接種した者でもマスクを着用すべきだと勧告。「ワクチン接種者はマスクを外してもいい」とした、バイデン大統領の指示を撤回させるきっかけをつくった。
また、CDCの研究は、デルタ株は水痘とほぼ同じくらい伝染性(1人が5~9人に感染させる)であるとして、ワレンスキー博士は、
「それは私たちが知っている最も伝染性のウイルスの一つです。はしか、水痘などに匹敵します」
と述べたのだった。
「それでもワクチン接種はあなたの命を救う」
では、ワクチンを接種しても意味はないのだろうか。米国最大級の科学ニュースサイト「Scientific American.com」(2021年8月4日付)「'Breakthrough' Infections Do Not Mean COVID Vaccines Are Failing」(ブレークスルー感染はコロナのワクチンの心配を意味するものでない)は、ワクチンの接種こそあなたがたの命を救うと呼びかけた。
「ワクチンを打ったのに発症するブレークスルー感染は、まだワクチンを打っていない米国の何百万もの人々の間に躊躇させています。しかし、ブレークスルー感染はインフルエンザ、はしか、おたふく風邪、百日咳、その他の多くの病気に対する予防接種の後に頻繁に発生します。100%有効なワクチンや治療薬などありません。コロナウイルスにはまだ、インフルエンザウイルスほど免疫力を克服していません。その、インフルエンザでさえ『今年は47%の効果がある』、または『60%の効果か...』と言っている段階ではないですか。それでも接種することによって、一人でも私たちの命を救うのです」
(福田和郎)