「自宅で死ぬのを待てというのか!」 菅首相の「自宅療養」という名の「患者放置」に怒りの声(1)

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「酸素吸入が必要な患者も自宅で療養してほしい」

   新型コロナウイルスの感染爆発が止まらず、医療崩壊にイラだったのか、こんなトンデモ方針を菅義偉首相が決めた。

   これまでは「中等症」以上の患者には入院措置をとっていたが、対象を「重症」患者らに絞ることにした。しかも、政府対策分科会の尾身茂会長も寝耳に水だという。「専門家の意見を聞いて」「国民の命を守る」という十八番のセリフはどこに行ったのか。医療従事者をはじめ、国民の怒りは沸騰している。

  • デルタ株の恐怖(写真はイメージ)
    デルタ株の恐怖(写真はイメージ)
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「中等症」は人生で一番苦しいほど重い症状

   政府が「自宅療養」という名のもとで事実上「放置」しようとしている新型コロナウイルス感染症の「中等症」の患者とは、どのくらいの症状の人々なのか――。

   一般の人は、「重症」は確かに命に関わりそうだから入院が必要だが、「中等症はまあ、ちょっと大変なくらいなのでは」と、ピンとこない人が多いようだ。ところが、トンデモなく苦しく、命の危険もあるのだ。

   米国で内科専門医として活動する安川康介さんが2021年7月21日、一般の人の多くがイメージしている新型コロナウイルスの「軽症」「中等症」「重症」と、医師がリアルに考える症状の違いをイラストに示して自身のTwitterに投稿した=下のイラスト参照

   安川医師は投稿で、こう書いている。

「『若者は重症化しないからワクチンは必要ない』と言う人がいます。日本の『重症』の定義は人工呼吸器や集中治療が必要な状態です。30代、40代でも中等症になる方はそれなりにいて、僕も多く診てきました。軽症や中等症といってもピンとこない方もいるので、スライドを作ってみました」
「中等症は意外に重い」医師と一般人のコロナのイメージの差(安川康介医師のTwitterより)
「中等症は意外に重い」医師と一般人のコロナのイメージの差(安川康介医師のTwitterより)

   そして、こう続ける。

「日本のコロナの重症患者数は少ないと感じる人がいるかもしれません。知ってもらいたいのは、日本の『重症』は、アメリカの『重症』よりも、もっと重症だということです。国により重症の定義が異なります。たとえば東京都の『重症』は、呼吸器/ECMO(エクモ)が必要と、アメリカの『重篤』(critical)に近いです」

   つまり、よく日本は米国などに比べると重症者が少ないではないか、とコロナを甘く見る傾向があるが、そもその「重症」の基準が日本のほうがはるかに厳しい。逆に言うと、日本で「中等症」と呼ばれる患者が、米国では「重症」のレベルに入る場合があるということだ。

   安川医師のイラストを見ると、一般人の認識と医師の見立てのズレの違いは一目瞭然だ。

(1)「軽症」では、一般人は「全然平気、風邪程度」と思う人が多いようだが、医師が持つ実際のイメージは「酸素(吸入器)は要らない」ということにすぎない。
(2)「中等症」では、一般人は「息苦しさは出そう」と少し不安になるが、医師が持つ実際のイメージは「人工呼吸器は要らない(酸素吸入が必要な場合がある)。肺炎が広がっている。多くの人にとって(今までの人生で)一番苦しい」という状態だ。
(3)「重症」では、一般人は「入院は必要だろう」と納得する。しかし、医師は「助からないかもしれない」という超危険な状態をイメージしている。

というのだ。

   ちなみに、「中等症」の人が経験する「多くの人にとって一番苦しい」状態とは、どの程度の苦しさなのか。朝日新聞(8月4日付)「中等症『置き去り』」によると、「酸素吸入が必要になる中等症Ⅱは、血中酸素飽和度が93%以下。1~2分息を止めた後の苦しい状態が続くようなものだという」とある。これは、相当の苦しみだろう。

「自宅療養」を迫られて一家4人全員が感染

お得意の「専門家の意見」を無視して独断で決めた菅義偉首相
お得意の「専門家の意見」を無視して独断で決めた菅義偉首相

   それを、田村憲久厚生労働大臣は8月3日の会見で、

「(中等症でも)比較的症状が軽い人は在宅療養をお願いしていく。場合によっては在宅で酸素吸入もありえる」

と述べたのだった。

   そのために自宅で血中の酸素濃度がわかるパルスオキシメーターを提供する。血中濃度が低くなったら、最寄りの保健所や医療機関に連絡をして......というわけだが、間に合わずに命を落とす人が多い。

   厚生労働省のまとめによると、今年1月から6月末までに自宅で亡くなった人が全国で89人いる。

   自宅療養者の厳しい現実を東京新聞(8月4日付)「自宅療養中に家族全員感染 入院待つ女性『子どもまで悪化したら...』」が、こう伝える。

「家族4人で暮らす多摩地域の50代女性は7月24日、咳が止まらなくなった50代の夫と一緒にPCR検査を受診、ともに陽性とわかった。夫には高血圧の基礎疾患があったが、保健所に『病院に空きがない』と言われ、自宅待機に。健康観察用に貸与された血中の酸素濃度を測るパルスオキシメーターで、夫は正常値(99~96%)を下回り、呼吸不全で酸素投与が必要とされるレベルの89%にまで低下。夫は保健所に呼吸苦を訴えたが、陽性判定から入院まで5日かかった。
医師からは『肺炎の症状が悪化している』と言われ、現在も入院治療を受けている。この間、同居する30代長女、20代長男とも陽性が判明。自宅療養していた女性も急速に体調を崩し、入院を待つ状況だ。長男には障害があり、女性は『私が入院した後、長女まで悪化したらと思うと不安が大きい。精神的にも追い詰められている』と語った」

   このように、自宅療養は家族全員に感染する危険性がある。

   朝日新聞(8月3日付)「自宅療養の厳しい現実、散らばった嘔吐物『私死ぬの?』」も、自宅療養を余儀なくされる人々の恐怖の生活を、こう書いている。

「自宅療養者は第4波のピーク時、大阪で1万5000人、兵庫では1800人を超えた。『重い肺炎ですぐに入院が必要なのに、亡くなる直前まで入院できない人が何人もいた』。神戸市の訪問看護ステーションを経営する社会福祉士の龍田章一さんは、目に涙を浮かべながら当時を振り返った。
市や病院からの依頼で、高齢者や障害者のコロナ患者140人の自宅を看護師と2人1組で訪問。患者は動けず、生ごみが散らかり、吐いたものはそのまま。『痛い』『苦しい』とうめく声が室内に響く。『私も死ぬの?』と何度も問いかけられた」

   龍田章一さんにとって、つらかったのは患者たちから「いつ入院できるの?」と問われても何もできないことだった。朝日新聞が続ける。

「酸素飽和度が低下し、重い肺炎の症状が出ている人たちが入院できなかった。『なぜうちの人が入院できないの』『あなたが保健所にちゃんと報告していないからじゃないの』。患者の家族から感情をぶつけられても、どうにもならず、神経がすり減った。ようやく入院の調整がついても、搬送先の医師から『長くは持たない』と言われた人が何人もいる。家族は怒り、泣き崩れた。『最初は自分も一緒に泣いていたけど、途中から感情を無にしていた』」

(福田和郎)

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