疑問符がつく数値目標の妥当性
だが、改定案で掲げた数値は実現可能性が疑問視されるのはもちろん、目標数値としての妥当性にも疑問符がつくものだ。
大手紙は改定案が経産省の総合資源エネルギー調査会に提示されたのを受けた7月22日朝刊で大きく報じたが、「険しい実現性」(日本経済新聞)、「温室効果ガス目標が先行 逆算で策定」(朝日新聞)、「太陽光頼みに限界」(毎日新聞)などの見出しが並んだ。菅首相が打ち上げた温室効果ガス削減の目標数値にあわせて作られた数字という見立てで、改定案が報告された21日の調査会で、橘川武郎委員(国際大副学長)が「リアリティに欠け、大きな禍根を残すのではないか」と、真正面から疑問の声を上げた。
各紙が指摘するように、再エネは、30年までの時間を考えれば設置が簡単な太陽光に頼るしかないが、すでに国土面積あたりの太陽光導入量は主要国の中で最大規模で、平地が欧州諸国などより狭い日本でこれ以上増やせるのか、山間地の開発の弊害(環境破壊、土砂崩れ)などの懸念もある。
再エネの発電は天候に左右されるため調整のため火力の活用が必要で、さらに送電網の増強も不可欠――といったように、今後の再エネ拡大には多くの壁が立ちはだかる。
主要国の30年の再エネ導入目標との比較をした毎日新聞7月22日朝刊の記事によると、36~38%という目標も、フランス(40%)に迫るも、ドイツの65%、米カリフォルニア州の60%には大きく見劣りする。
原発も、福島第一原子力発電所(福島県)の事故後に稼働したのは累計10基だけ。19年度の実績は、前記の通り、発電全体の6%を賄うにとどまる。30年度20~22%を実現するためには、電力各社が再稼働に向け申請を行った全27基がフルに動く必要があるが、追加の安全対策などを考えると、実現は不可能との見方が一般的だ。
さらに、既存の原発は多くが50年には運転期限の40年に達し、全基が特例の20年延長を認められても、60年時点で稼働するのは8基程度に減る。このため、経済界や自民党内に新増設を求める声があるが、今回の改定案は、これには触れていない。