新型コロナウイルスの感染拡大で需要が急減したものの、その後の急回復で息を吹き返した自動車業界。コロナ禍前からの課題だった次世代自動車の技術開発を巡る動きが、具体化してきた。
商用車の分野で先行しており、トヨタ自動車が中心になって2021年4月に設立した共同出資会社に軽自動車の2強、スズキとダイハツ自動車も出資することになった。大型車を製造する日野自動車、いすゞ自動車も加わっており、「トヨタ連合」の勢力が拡大してきた。
「CASE」にかかる膨大なコスト負担を軽減
「求めやすい価格でカーボンニュートラルに貢献する軽自動車を市場に送り出すことは、単独では非常に難しい」
2021年7月21日に開かれたオンライン記者会見で、スズキの鈴木俊宏社長が「トヨタ連合」に加わる理由を、そう説明した。
同席したトヨタの豊田章男社長は、
「一緒になることで7割近い軽自動車ユーザーのことがわかる。軽自動車を更に進化させるお手伝いができるのであればうれしい」
と応じた。
共同出資会社は、クルマの電動化に向けた技術協力や、クルマ同士を通信で接続することによる物流効率化、先進安全技術の普及拡大などを担う。トヨタが日野、いすゞに呼びかけて3社で設立しており、軽自動車2社が加わることで、資本構成はトヨタが60%、他の4社が各10%となる。いすゞの完全子会社であるトラックメーカーのUDトラックスも事実上参加している。これで物流の大動脈(トラック物流)から毛細血管(軽商用車)までをカバーすることになる。
自動車業界は「CASE」(Connected=つながる、Automated=自動化、Shared=シェアリング、Electric=電動化)と総称される次世代技術の開発競争の真っ只中にあり、「100年に一度の変革期」ともいわれている。
加えて、主要国政府が相次いでカーボンニュートラルへと舵に切ったことで、自動車業界も一段の対応を迫られている。こうした技術開発には莫大な資金が必要になり、中小メーカーは1社では賄えない。そのため、こうした連合を組んで負担をできるだけ軽くしようとしているわけだ。
「トヨタ連合」の狙いはデファクトスタンダード
共同開発には別のメリットもある。たとえば、クルマ同士を通信で接続する技術は、メーカーを超えて規格を共通化することで有効性が高まる。その技術を活用したソリューションが実用化されれば、ユーザーは共通規格に対応した商用車を優先的に選ぶようになるからだ。商用車は決まったルートを運行することが多く、充電設備のようなインフラの規格共通化も参加企業が多いほど有効になる。
「トヨタ連合」と呼ばれるのは、トヨタと4社に資本関係があるからだ。ダイハツはトヨタの完全子会社であり、日野はトヨタが50%を保有する。スズキ、いすゞも、それぞれ5%の株式をトヨタが保有している。
ダイハツとスズキは軽自動車のシェアを巡って激しい販売競争を繰り広げてきたライバルだったが、CASE開発の負担に加え、国内に限定される軽自動車市場の頭打ちが転機となり、トヨタを介して異例の連携が実現した。
さて、他社が参加する可能性はあるのか――。5社は「オープンに検討」するとのスタンスだが、ここでデファクトスタンダード(業界標準)の規格を定めてしまえば、トヨタ連合の優位は揺るぎないものになる。
費用がかかるCASE開発を逆手に取ったトヨタの戦略に対して、5社に加わっていない日産・三菱グループやホンダがどのような判断を下すか注目される。(ジャーナリスト 済田経夫)