コロナ禍が直撃する旅行業界で今、パソコンやスマホを使って家に居ながら旅を楽しめる「オンラインツアー」が続々と発売され、人気を集めている。
旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)は、新型コロナウイルスの感染が本格的に拡大した2020年春から21年6月末までで、すでに10万人超が体験したと発表した。オンラインツアーについて、旅行各社はストップしている旅行の穴埋めとしてだけでなく、実際の旅の「下見」や「予習」の機会とも位置づけ、コロナ後の需要拡大につなげたい狙いがある。
バラエティー豊かなメニューを用意
「ケニア・ナイロビ国立公園サファリライブツアー」
「インドの有名占い師によるオンライン占星術&手相占い」
HISで2021年上半期に人気だったオンラインツアーはバラエティーに富んでいる。たとえば、サファリツアーは、日本語を話す現地ガイドがクルマでドライブしながら動物を探していく様子をZoomで生中継するものだ。どんな動物に出会えるかは「運」次第で、ライオンを見られることもあるという。
単に画面で映像を見るだけではなく、実際に自分が現地に居て、目の前で体験しているかのようなライブ感を味わえるのが最大の魅力といえそうだ。
JTBも、パリのファッション・アートの発信地であるマレ地区をガイドが散策しながら生配信し、チャットでやりとりできるツアーなどを手掛けている。日本にはいない植物や昆虫が多数生息するマレーシアのボルネオ島で「バーチャル昆虫採集」と銘打ったツアーもあり、工夫を凝らした商品が多い。クラブツーリズムも「シベリア鉄道乗車体験」などラインナップを増やしており、各社はこぞってオンラインツアーに力を入れている。
1000円前後の安価なツアーも
そんなツアーの体験者が増えているのは、値段も手ごろなためだ。2000~3000円台のツアーが多く、1000円前後と安価なものもある。
ある体験者は、
「旅行に行きたくても行けないので参加してみた。十分に楽しめた」
と話しており、実際に旅行できないストレスを解消できる貴重な存在になっているようだ。
コロナ禍による各国の渡航制限などで、海外旅行は事実上、止まっている状況だ。2020年の訪日客数は前年比87.1%減、日本人の出国者数も84.2%減で、コロナ禍が収まらなければ、この状況は続くとみられている。このため旅行各社は苦境にあえいでおり、大規模な人員削減や不動産の売却なども進めでいる。
こうしたなか、旅行各社がオンラインツアーに力を入れたのは、旅行への関心を維持しなければならないことに加え、社員や現地ガイドらの働く場を守るためでもあった。
しかしここ最近は、少し状況が違ってきている。「オンラインツアーをコロナ後の旅行先を選ぶ『予習』にしてもらいたい」(旅行関係者)という意識が強まっているのだ。
ワクチン接種が進み、コロナ禍の出口が、ほんの少し見えつつある現在。コロナ禍後に旅行需要が回復し、コロナ前以上の活況にしたいという期待がオンラインツアー熱を高めているようだ。(ジャーナリスト 済田経夫)