「ファクスなんて、もう10年以上使ったことがないな」
という人も少なくないのではないか。
しかし、中央省庁が立ち並ぶ霞が関では、いまだにファクスはなくてはならない仕事のツールなのだ。これでは行政のデジタル化は進まない。何より、ファクスの送受信のために出勤する人が多く、テレワークを妨げる大きな理由になっている。
というわけで、河野太郎行政・規制改革相が「ファクス廃止」を打ち出すと、霞が関の猛反撃を受けて、火だるま状態だという。いったい、どうなっているのか。
河野大臣、ファクスやめて「メールに切り替えて」
霞が関全体を敵に回した河野太郎行政・規制改革相の孤軍奮闘、四面楚歌ぶりを伝えるのは、読売新聞(2021年7月27日付)「河野行革相要請の『ファクス廃止』、霞が関が抵抗...『国会対応で必要』など反論400件」である。
「河野行政・規制改革相が旗を振る省庁のファクス廃止が難航している。各省庁からは国会対応などを理由に約400件の反論が寄せられ、霞が関の根強い『ファクス文化』が浮き彫りになった。河野氏は行政のデジタル化を推進するため、粘り強く取り組む考えだ」
河野氏は今年6月15日の記者会見で、行政のデジタル化の推進と、省庁のテレワークが進まない理由の一つに業務にファクスを使っていることがあるとして、「ファクスの原則廃止」を打ち出したのだった。内閣官房行政改革推進本部を通じて、ファクス廃止ができない場合は理由を報告するよう全省庁に求めた。河野氏も会見で、
「惰性でファクスを使うのはやめ、メールに切り替えてほしい」
と呼びかけた。しかし、これには猛反発が返ってきた。 読売新聞が続ける。
「これに対し、省庁側からは『メールはサイバー攻撃による情報流出の懸念がある』『地方の出先機関では通信環境が整っていない』などとファクスの継続使用を求める意見が相次いだ。災害時などに限って認める考えだった河野氏にとっては、目算が外れた形だ。廃止に消極的な理由として国会対応も挙がった。議員側とはファクスを通じてのやりとりが多く、『役所側だけでは変えられない』というわけだ。河野氏は7月に入り、衆参両院の議院運営委員会に協力を依頼したが、どこまで効果が上がるかは不透明だ」
主要メディアの報道をまとめると、400件の反論の中には、ほかにもこんな例があったという。
「国民の声を吸いあげたり、事業者からの申請を受け付けたりする際に、メールを使えないお年寄りのために、ファクスは残しておくべきだ」
「最高裁が定めた民事訴訟の規則では、法廷文書は『持参』『郵送』『ファクス』の3つの通信手段しか認めていない。それに従って法務省でもファクスを多用している。メールにするには最高裁の規則から変えなくてはならない」
「警察文書や防衛文書など機密性が高い情報を扱う省庁ではファクスを使う場面が多い。メールに切り替えるとセキュリティを確保する新システムが必要になる」
「省庁の多くが、ニュースをクリッピングしてファクスで送ってもらう民間サービス会社を利用している」
「医療現場ではファクスが日常的に使われており、厚生労働省では、必然的に情報のやり取りにファクスを使うのが当たり前になっている」
などなどだ。