東京五輪・パラリンピックの喧騒に紛れて、高速道路料金が大きく変わろうとしている。
政府は、大都市圏の高速料金の「変動制」を本格導入しようとしているのだ。混雑している時は高く、すいている時は安くと、混雑状況に応じて臨機応変に変えてスムーズな走行を目指すという。
一見、合理的に思えるが、ネット上では「混雑した高速道路を避けるクルマで一般道路が大渋滞するではないか」という猛批判が起こっている。
さらに、もう一つの問題点が――。「高速道路の無料化」という約束を反故にしようとする動きが隠れているという。いったい、どういうことか。
「高速料金、混んでたら高く、空いたら安く」
2021年7月26日、国土交通相の諮問機関である社会資本整備審議会が開かれて、変動料金制度「ロードプライシング」の本格的な導入を検討する中間答申案をまとめた。
「ロードプライシング」(Road pricing)とは、「道路課金」と訳される。特定の道路や地域、時間帯における自動車利用者に課金することにより、自動車交通量の抑制を図る施策で、交通渋滞や大気汚染の著しい地域に導入することにより、渋滞緩和と大気環境の改善が期待されるという。
その動きを、朝日新聞(7月26日付)「高速道路、混んでたら値上げへ 繁忙期は休日割引の適用やめる」が、こう伝える。
「ロードプライシングは、混雑が激しくなりそうな道路や時間帯で料金を上乗せする。料金を安くする時間帯もつくり、利用者を分散して渋滞を減らす。東京五輪・パラリンピックの期間限定で、首都高で実施している。 期間中は日中から夜間は乗用車が1000円値上げされ、深夜から未明は半額になる。大都市圏の渋滞区間で、時間帯や曜日を区切って導入を検討する。混雑状況に応じて機動的に料金を変えることを想定している。具体的な区間や時間帯、金額は今後つめる」
東京五輪開催前の7月19日から首都高でテストしているのだ。五輪の選手や関係者は主にバスで移動する。従来、海外から要人が来た場合は、入り口を限って閉鎖した。しかし、五輪期間中は閉鎖方式をとらず、選手らが時間どおりに動けるよう、都内の首都高は午前6時~午後10時に料金を1000円上乗せて交通量を抑えた。逆に、午前0時~4時は半額にした。
この効果は絶大で、産経新聞(7月27日付)「首都高渋滞最大9割減 ロードプライシング」によると、警視庁の集計では、東京都内の首都高では平常時と比べ、最大9割も渋滞を抑えられたという。
冒頭の朝日新聞が続ける。
「(五輪後、ロードプライシングは)中央自動車道の小仏トンネル付近や東京湾アクアラインなど混雑が目立つところで、2022年度以降に休日に試行することが考えられる。値上げする時間帯に定期的に通過せざるを得ない利用者からの反発も、予想される。割り増しによる収入で、車線増設などの渋滞対策をすることを検討する。繁忙期の渋滞緩和のため、大型連休やお盆などに休日割引の適用をやめる。深夜割引は利用時間の一部が適用内なら全体的に割引されるため、パーキングエリアでのトラックの待機などが問題となっていた。適用時間帯を広げ、その時間の走行分だけ割引するようにする」
など、渋滞緩和を徹底させるために、これまで全国で実施していた大型連休やお盆といった繁忙期は休日割引をしない方針も示した。
休日割引が減ることも加えて、実質的にかなりの値上げになるが、その収入増を車線増設などの渋滞対策に充てるというわけだ。
「無料の高速道路」まで有料化か?
朝日新聞は重大なことを、さらに続ける。「高速道路の無料化がなくなる」というのだ。
「答申案では、法律で定める2065年までの(全国の高速道路の)無料開放について、延期する方針も示した。国交省は具体的な時期を法律から外そうとしているが、『将来的に無料開放する原則は維持している』と主張する。利用者負担を基本とし、現在無料の区間を原則有料に切り替える方針も示した。有料化は地域ごとに並行する一般道路があるかどうかなどを考慮し、個別に決めていく」
日本道路公団が2005年に民営化した際、2050年までに建設費の借金を返済し、無料化すると関連法で定めた。しかし、2012年の中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故を機に、巨額の更新費を確保する必要があるとして返済期限を2065年に延長していた。
国土交通省はその「約束」を法律から削除しようというのだ。もっとも「約束」が守られたとしても、44年後の話だが......。
そればかりか、注目されるのは、地方に現在多くある「無料の高速道路」まで有料化しようとしている点だ。
自動車、鉄道など乗り物関係に詳しい乗り物ニュース(7月27日付)「なぜ?『無料高速の有料化』検討 高速道路の料金どうするか 国が近く答申」も、この「無料の高速道路」の有料化を問題視した。
「なかでも、地方に大きな影響を及ぼしそうな議題の一つに、いわゆる『無料高速』の負担の在り方が挙げられます。主に地方で見られる無料の高速道路は、国土を縦貫する高速道路や都市部の高速道路など、高い交通需要が見込まれる路線が有料道路事業を基本として整備されてきたのに対し、国の税金で建設されてきました。なかには、有料区間と無料区間が混在する路線もあります。その有料化検討の目的は、『これからの維持管理費をどうするか』に尽きます」
多くの「無料高速道路」は国と地方自治体がお金を出し合って高速道路を建設する「新直轄方式」で作られた。管理者である高速道路会社は費用を負担していないため、料金を徴収しない。例としては、能越自動車「高岡ICから灘浦IC」、中部横断自動車道「佐久北ICから八千穂高原IC」、四国横断自動車道「西宇和島ICから宇和島北IC」などが挙げられる。
ところが、そこからも料金を徴収する「理由」を、乗り物ニュースはこう指摘した。
「この無料高速の整備にはさまざまな事業スキームがありますが、これまで(審議会の)委員からは『法整備した当時は維持費をどうするかという観点がなかった』といった指摘がなされています。2010年代以降、維持管理の重要性やインフラの老朽化問題が顕在化するなかで『従前の考え方はリセットせざるを得ない』との議論が出ているのです。NEXCO3社や首都高速、阪神高速、本四高速が2021年4月時点で計画している更新事業の費用だけでも、総額は約5兆2652億円に上ります。無料高速の有料化も、このような維持管理費の負担の在り方のひとつとして議論されているのです」
と嘆いている。
「高速道路は金持ち上級国民のための『上級道路』に」
今回の実質値上げにつながる高速道路料金の「変動制」について、インターネット上では、こんな意見があふれている。
トラック運転手でもあり、ブルーカラーの労働環境に詳しいフリーライターの橋本愛喜さんはこう指摘した。
「毎度国に都合がいいことに関しては、検討・導入がやたらと早いというと意地悪なのかもしれませんが、渋滞解消以外にこの料金変更をする理由がないのならば、道路利用者に対してあまりに不誠実です。値上げを避けるクルマが結果的に下道(一般道)を走り、交通量が必然的に上がる=渋滞を引き起こす=利用者から不満の声が上がっていることは、現在のオリパラの1000円上乗せでよく分かっているはず。仕事や家庭の事情で毎日首都高を走らなければならない利用者も多く、また、『混んだら値上げ』によって下を走る地場配送の物流車両も渋滞に巻き込まれれば、指定時間に荷物を運べなく恐れもあります。検討の背景にはどういう理由があるのかを詳しく説明しない限り、道路使用者は納得しないのではないでしょうか」
ほかにもこんな批判が多かった。
「本来、道路維持に使われる自動車関連税...自動車税、軽自動車税、自動車重量税、揮発油税などを一般財源化しておいて、今さらお金が足らんと、高速料金を値上げする? 私は3台所有して1年に13万円を支払っている。もう、ぼったくられるのはイヤだから、1台減らします」
「遠くへ早く着くために、高い金を払って使うのに、渋滞して遅くなると値上げするとはこれ如何に? むしろ高速道路のサービス低下になるから、返金するのがサービスの基本じゃないのかなあ。新幹線だって2時間以上延着したら特急券払い戻しですよ」
「コロナ禍故に自家用車の交通量が増えていることを考慮せず、いや無視しており、実質値上げの方向に舵を切っている。ETC利用率を上げ、料金所の効率化、本線の多車線化を促進し、無駄なダラダラ工事、草刈りなど環境整備作業の実施時間を見直ししていけば多くの渋滞解消も可能。二輪車料金の半額化できれば、二輪車の利用も増えることは間違いない」
「東京・世田谷の環状8号(カンパチ)沿いに住んでいます。五輪に合わせた首都高のロードプライシングでは確かに高速の渋滞は減ったようですが、代わりにカンパチが渋滞しまくり、ひどい状態です。同じことが地方でも起こると思う」
「一般道が渋滞すれば、ますます裏道、住宅街を爆走する輩が増えて、この前に起きた千葉の八街のような痛ましい事故が増えそうで、心配だ」
「これでは、高速道路は金持ち上級国民のための『上級道路』となり、一般道路の『下道』は渋滞に巻き込まれて市民生活もままならない。絵に描いたような『上下格差』が生まれる。終いには、『渋滞がイヤなら地方へ移住すればイイ』とか言い出すのでは?」
(福田和郎)