東京オリンピックが2021年7月23日に開会式を迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期され、いまなお世界各地で猛威を振るっている中での開催に、さまざまな議論が巻き起こっているが、アスリートの活躍には応援の声を届けたい。そう思っている人は少なくないだろう。
そんなことで、7月はオリンピックとスポーツにまつわる本を紹介しよう。
直前に演出家が解任されるなど、ドタバタしたオリンピックの開会式だったが、各国選手団の入場には感動した人も多いのではないだろうか。男女一人ずつの旗手が掲げた国旗にも見慣れないものが多く、世界中からアスリートが集まったことを実感した。
また競技が始まり、毎日国旗を見たり、国歌を聴いたりする機会も多い。本書「オリンピックでよく見るよく聴く国旗と国歌」は、世界の国旗と国歌への理解を深めてくれる本だ。
「オリンピックでよく見るよく聴く国旗と国歌」(吹浦忠正・新藤昌子著)三修社
独立戦争の光景を歌詞にしたアメリカ国歌「星条旗」
国旗についての本はいろいろあるが、国歌とセットになったものは珍しい。1964年の東京五輪以来、札幌、長野のそれぞれの冬季五輪で国旗や儀典にかかわり、今回の「東京2020」では組織委員会国際局アドバイザーを務める国旗の専門家、吹浦忠正さんと、約100か国もの国歌を原語で歌えるオペラ歌手の新藤昌子さんが手を組んだ本である。
42か国の国旗について吹浦さんが、国歌について新藤さんがそれぞれ解説。国歌は原語の歌詞と邦訳、楽譜、歌唱のポイントが書かれているので、ピアノがあれば、すぐに演奏し、歌うことができるだろう。
さらに、アメリカ、オーストラリアなど21か国の国歌については新藤さんが歌い、新垣隆さんが伴奏したCDが付いているので、参考になる。
大会5日目までのメダル獲得数は、日本が金10、銀3、銅5の18個、アメリカが金9、銀8、銅8の25個、中国が金9、銀5、銅7の21個と、この3か国が上位にいる。日本はさておき、接する機会が群を抜いて多いアメリカと中国について、本書からいくつかうんちくを披露しよう。
アメリカの国旗が「星条旗」と呼ばれていることは、あまりにも有名だ。左上隅の50星が現在の国を構成する州の数を、赤と白の13本の条(ストライプ)が独立当時の13州を表す。星は州の数が増えるたびに、次の独立記念日(7月4日)からその数が増えていく。1912年以来、長く48星だったが、アラスカの州昇格で1959年に49星に、ハワイの州昇格で1960年以降は50星になっている。
大統領就任式では、議事堂の正面にそのときの「星条旗」とともに、1783年の独立当時の二つのデザインの国旗が各2枚掲揚される。独立当初の13の星が、横に3、2、3、2、3個配列されているものと、13が円状に並んでいるもので、当時、両方が国旗として使用されていた。
国歌の題名は「The Star-Spangled Banner」で、「キラキラと星が輝く旗」という意味だ。日本では国旗と同じく「星条旗」と呼んでいる。冒頭の邦訳を引用すると、こうなる。
「おお 見えるだろうか
夜明けの薄明りの傍らにあるのを
薄暮の最後の閃光の中で
我々が誇らしく称えたあの旗が」
独立戦争当時に英国海軍の猛攻に耐えた要塞にはためいていた星条旗の光景を見て感動した人が、わずか数分で詩を完成させたという。歌詞には「O」という感嘆詞や反語的に「?」を用いた疑問文が使われている。「アメリカ国歌ほど、テンポやリズムに至るまで、歌手によって変幻自在にアレンジされて歌われる国歌は、世界に類を見ません」と新藤さんは書いている。