東京都では2021年7月28日、新型コロナウイルスの新規感染者が過去最多の3117人を確認した。初めて3000人を超えた。
主要メディアの中には「東京五輪開催に伴う感染対策の緩み」(毎日新聞)も影響していると指摘するところが多い。
実際、選手村では五輪の感染対策の規則集(プレーブック)違反が大っぴらに行われており、「クラスターがいつ起こってもおかしくない」(朝日新聞)状態だという。
マスクを着けずに陽気なスペイン選手たち
東京五輪・パラリンピック組織委員会は7月28日、新たに16人の新型コロナウイルス陽性者が出たと発表。これで選手を含む陽性者は通算で169人となった。
そんな選手村の緩みっぱなしの雰囲気を伝えるのが、スペイン最大の日刊スポーツ新聞「マルカ」だ。7月19日付電子版で「Juegos Ol?mpicos 2021:La Villa Ol?mpica, el lugar donde se fabrican los sue?os」「東京五輪2021:夢がかなう選手村 アスリートたちはすでに大会の本拠地に住んでいます」という見出しをつけ、グラフ特集を掲載した。
記事は全編、選手村を中心にニッポン生活をエンジョイしている選手たちの姿を紹介している。長崎・佐世保の事前合宿で浴衣を着ながら「侍ポーズ」を決める男子選手たち。選手村の廊下で、ダンスに興じる女子選手の動画。五輪のモニュメントで記念撮影をする選手たち。選手村の食堂で食事をしながら談笑する女子バスケッの選手たち......。
南国スペインらしい明るさにあふれているが、驚くのは誰一人としてマスクを着けていないこと=上の写真参照。
食堂で談笑する選手たちの向こうには、マスクを着けた日本人職員が食器を片付ける姿が見えるが、その横のビュッフェに集まる他国選手の中にはマスクを着けていない人が何人かいる。マルカ紙の記事にも、特にマスクの有無を記述した内容は見当たらない。陽気なスペイン人にとって「No me importa」(どうでもいいさ)ということなのだろうか。
選手村の中では、感染対策のルールを守らない選手が多いことを、朝日新聞(7月23日付)「朝の食堂混雑、ビュッフェ方式 マスクなし会話、夜は騒ぐ声も」が、こう伝える。
「『いつクラスターが発生してもおかしくない』。選手村でアルバイトとして働く50代女性はそう語る。特に気になるのが、選手村の中央にある食堂専用棟だという。2階に分けて約3000席あり、1日最大4万5000食を提供できる。(中略)食堂に入るには、感染予防のために使い捨ての手袋が渡される。だが、『要らない』と受け取らない選手や関係者が『かなりの割合で』いるという。手のアルコール消毒をしない人もいる」
料理は、ビュッフェ方式。選手は欲しい料理のところに並び、職員に取り分けてもらう。「ただ果物は自分で取れる。食後に改めて果物を取りに行く際、わざわざ手袋をはめる人はほとんどいない。一度素手で取ったものを戻す人を目にすることもある」
「食前はマスクを着けていた人が、食後は外したまま、飛沫予防のパネルをよけるように隣の選手と話したり、マスクを外した人から『トイレはどこか』『食べ物は部屋に持ち帰っていいか』と話しかけられたり。夜勤で出勤すると、お酒を飲んでいるのか、窓を開けた部屋から複数で大騒ぎする声が聞こえたこともある。同僚の中には家族から『(選手村で働くのを)もうやめなよ』と言われた人もいるという」
朝日新聞は、選手村に滞在する日本人選手のこんな不安で結んでいる。
「(食堂について)バイキングのような感じで、いつ行っても人が多く、どう考えても感染は防げないのでは」
アメリカとイタリア選手団が食堂で「マスクなし大宴会」
小学館のニュースサイト「NEWSポストセブン」(7月28日付、週刊ポスト8月13日号)「米・伊選手団が食堂で『マスクなし大宴会』 五輪選手村スタッフが目撃」が、選手村スタッフの証言をこう伝える。
「『どこがルールの遵守だ、と。いつクラスターが起きるかと心配しています』。このスタッフによれば、最も危ないと感じるのが選手村中央にある『食堂』だという。(中略)アスリート向けプレーブック(規則集)によれば、選手村では原則として食事、就寝、練習時を除き〈常時マスク着用〉を求めており、〈ハグや握手などの物理的な接触を避けてください〉と明記されているが、食堂ではハメを外す選手が絶えないそうだ」
スタッフはこう語っている。
「『食事中にマスクを外すのは仕方ないですが、そのまま大声でしゃべりまくっている選手が多いのです。開会式の数日前、アメリカとイタリアの選手団がそれぞれ10人以上の大人数で食堂に来て、宴会状態になっていた。他の座席からイスを持ってきて、みんなでワイワイと。その後、アメリカ選手団は盛り上がった流れで肩を組んで記念撮影会になだれ込んじゃって。〈ウォー!〉って雄叫びを上げる選手もいました。もちろんマスクはしていません」
東京五輪組織員会の最高責任者の一人からしてルールを守らないのだから、何をかいわんや、である。毎日新聞(7月28日付)「東京感染過去最多 五輪規則違反、緩み助長? マスク未着用・選手同士のハグ・声援」が、山下泰裕・JOC(日本オリンピック委員会)会長のルール破りを、こう報じる。
「開幕以来、選手らの規範意識の緩みが見られる。組織委などが感染対策の要とするプレーブック(規則集)のなし崩し的な運用も目に付く。競技が本格的に始まった7月24日、柔道会場の日本武道館では、JOC会長で組織委副会長でもある山下泰裕氏がマスクなしで会話する姿があった。常時着用を定めたプレーブックに違反する行為だが、(毎日新聞が取材で聞くと)組織委は『どう対処したか把握していない』と説明を避ける」
というありさまだった。
これでは、外国選手たちのルール破りに強い態度で対応するのは難しいだろう。
選手村だけでなく、競技場でも選手やコーチらのルール破りが目につく。マスクを外し、大声で応援したり、抱き合ったりするのだ。特に、オーストラリアの水泳コーチの度を越した応援ぶりがSNSで世界中に拡散。謝罪に追い込まれる事態に発展した。
陽性選手の隔離に「外交問題にする」と怒るオランダ
AFP通信(7月27日付)「Tokyo 2020: Australia's swimming coach apologises for mask-tearing antics」(豪競泳コーチが謝罪、マスク引き剥がして狂喜乱舞」が、凄まじい熱狂的応援ぶりとコロナ禍の危険性を、こう伝える。
「豪州競泳代表のコーチが7月27日、東京五輪で金メダル獲得の喜びのあまりマスクを引き剥がし、新型コロナ対策の厳格な規則を破ったことを謝罪した。同コーチが喜びを爆発させる動画はインターネット上で拡散され話題を呼んだ=下の写真参照。ディーン・ボクソール氏は、自チームの女子選手が最大のライバルの米国選手を破ると狂喜乱舞した。歓喜の雄叫びを上げて長髪を振り乱し、宙を蹴って拳を振り下ろし、最後は(感染防止の)透明の柵を腰で突き上げた。
またマスクを引き剥がすと、無観客のスタンドに投げつけんばかりの勢いで喜び、その近くでは大会ボランティアたちが不安そうに右往左往していた」
その姿は1990年代に活躍し、リングロープを揺らす派手なパフォーマンスで有名な米国プロレスラー「アルティメット・ウォリアー」に例えられるほど、ボクソール氏はSNS上で一躍人気となった。しかし本人は、緊急事態宣言下にある東京で新型コロナ対策を破ったのは度を過ぎていたと反省した。
豪テレビ局に、
「あの瞬間はわれを失っていた」
と弁明したのだった。
まだ、この水泳コーチの例は「可愛い」ほうかもしれない。コロナ禍で陽性になった選手に対する厳格なルールの対応が、その国の五輪員会から抗議を受ける羽目になっている。
時事通信(7月28日付)「陽性選手の隔離状況『受け入れられない』 オランダ五輪委員会」が、こう伝える。
「オランダオリンピック委員会(NOC)は7月27日、新型コロナの陽性反応が出た選手の『受け入れがたい』隔離状況について、IOCと協議すると発表した。NOCのテクニカルディレクター、マウリッツ・ヘンドリクス氏によると、五輪チームの6人(うち3人はボート競技代表)が陽性反応を示し、現在は『非常に劣悪な環境』で隔離されているという」
7月27日に東京都内で行われた記者会見でヘンドリクス氏は、こう述べた。
「選手らはすでにオリンピックドリームを失い、そして今、さらに良くない状況に追い込まれている。われわれはこの問題をIOCに提起し、また駐日大使にも日本でこの問題を提起するよう求めた。最も重要なのは、選手らが日の光を浴びることも、新鮮な空気を吸うことも許されていないこと。室内にとどまらなければならず、食事も...... 狭い空間も問題だ」
と、IOCとの協議だけでなく、日本政府との外交問題にすると、息巻いているのだ。大丈夫か、東京オリンピック?
(福田和郎)