原油価格が上昇 懸念される日本経済への影響 最大の産油国・米国やOPECの思惑は......

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   原油価格が上昇している。

   産油国の協調減産をめぐるさまざまな動き、コロナ禍からの経済回復のペースなどが絡んでのことだが、高値が続けば日本経済には重荷になる可能性がある。

  • 原油価格の上昇で日本経済はどうなる!?(写真は、石油精製所)
    原油価格の上昇で日本経済はどうなる!?(写真は、石油精製所)
  • 原油価格の上昇で日本経済はどうなる!?(写真は、石油精製所)

乱れる産油国の足並み

   まず、産油国の動向だ。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟国は「OPECプラス」と称され、2020年5月、コロナ禍に伴う世界的な原油の需要減を受け、過去最大規模となる日量970万バレルの協調減産を開始した(その後、減産幅を縮小して現在は580万バレル)。

   期間は22年4月までとしていたが、いち早く新型コロナウイルスの抑え込みに成功した中国に続き、ワクチン接種が進んだ米国なども21年に入り経済回復が顕著になり、石油の需要も想定より早く回復に向かうとの見立てから、協調減産をめぐり、産油国の足並みに乱れが生じてきた。

   OPECプラスは毎月のように協議していて、2021年7月5日にも会合を開くはずだったが、ここで「盟友」とみられてきたサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の対立が表明化。サウジはロシアとともに、感染再拡大に備えて協調減産の延長を主張したのに対し、協調減産の割り当て方法に不満を持つUAEが反対して決裂。国際的な原油相場が乱高下する事態になった。

   その後、水面下での調整を経て、18日に会合を開き、協調減産期間を22年末まで延長する一方、8月から毎月日量40万バレルずつ減産を縮小することで妥協が成立した。減産縮小は現在の580万バレルが解消するまで続けるとし、会合後の声明で「22年9月末までに生産調整を終了するよう努める」とした。

   さらに、UAEの不満の原因になっていた減産の基準になる生産量を22年5月から一部見直し、合計約163万バレル余り増やすことでも合意。UAEは316.8万バレルから350万バレルに引き上げるほか、イラクとクウェートは各15万バレル、サウジとロシアは各50万バレル多い1150万バレルとすることになった。

   国際エネルギー機関(IEA)は、世界の石油需要について21年は前年比540万バレル増の日量9640万バレル、22年は9950万バレルと予測し、22年末までに新型コロナ流行前の水準を回復するとの見通しを示している。

   ただ、感染力の強いデルタ型(インド型)など変異株への置き換わりで、再び行動制限が強まるなどして、経済活動が落ち込む懸念もある。OPECプラスはこうした需要動向をにらみながら、協調減産の枠組みを維持しつつ微修正で妥協したといえる。

「原油高値→生産増→相場急落」を避けたい米国

   コロナ禍で原油相場は激しい動きをしてきた。米国の代表的指標であるニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物価格は、新型コロナウイルスの感染拡大で20年春に瞬間値でマイナスを記録した後、年後半は1バレル=40ドル程度で推移していたが、年明けから米国の景気回復に歩調を合わせて上昇しはじめ、春先に60ドルを回復、ここにきて70ドルに乗せた。

   OPECプラスの決裂で、7月6日には一時76ドル台に上昇し、2018年10月以来約2年9カ月ぶりの高値を付けた。その後、増産予想から65ドル台まで下落、協調減産延長の合意を受け、直近では70ドル台前半に上昇――と、先行きが見通せないとあって、不安定な動きになっている。

   原油相場を考えるうえで、世界最大の産油国である米国の動向も注意が必要だ。経済活動の回復で7月2日時点のガソリン需要は日量1000万バレルと、初めて大台に乗せた(米エネルギー情報局=EIA)。このように需要は旺盛だが、産油量は増えていない。

   相場が上がると、岩の中から油を搾りだす形で採取するシェールオイルが採算ラインになり、生産が増えるというのが近年のパターンだったが、そうはなっていないのは、石油産業を応援したトランプ政権から、環境を重視するバイデン政権に交代したことが響いているとみられる。

   「高値→生産増→相場急落」という過去の「失敗」を繰り返したくないとの業界の判断もあるという。

   原油高は日本経済に与える影響も小さくない。原油をほぼ輸入に頼るだけに、第一生命経済研究所の試算では、影響は小さくない。ドバイ原油先物価格を見ると、足元では1バレル=70ドル前後とWTIとほぼ同水準だが、このドバイ原油先物が21年後半に平均60ドル程度なら、20年(平均42.2ドル)と比べ21年後半から1年間の家計負担額は1.8万円、平均70ドルなら2.3万円、80ドルになれば2.8万円も増加する。21年度の日本の経済成長率も、ドバイ原油先物が平均60ドル程度なら0.1%程度押し下げ、70ドル、80ドル程度となれば、それぞれ0.17%、0.24%も押し下げることになるという。

   同研究所は、コロナ禍に伴う消費者心理の低下に加え、「今後の個人消費の動向を見通すうえでは、原油価格の高騰を通じた負担増が遅れて顕在化してくることにも注意が必要であろう」と指摘している。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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