「原油高値→生産増→相場急落」を避けたい米国
コロナ禍で原油相場は激しい動きをしてきた。米国の代表的指標であるニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物価格は、新型コロナウイルスの感染拡大で20年春に瞬間値でマイナスを記録した後、年後半は1バレル=40ドル程度で推移していたが、年明けから米国の景気回復に歩調を合わせて上昇しはじめ、春先に60ドルを回復、ここにきて70ドルに乗せた。
OPECプラスの決裂で、7月6日には一時76ドル台に上昇し、2018年10月以来約2年9カ月ぶりの高値を付けた。その後、増産予想から65ドル台まで下落、協調減産延長の合意を受け、直近では70ドル台前半に上昇――と、先行きが見通せないとあって、不安定な動きになっている。
原油相場を考えるうえで、世界最大の産油国である米国の動向も注意が必要だ。経済活動の回復で7月2日時点のガソリン需要は日量1000万バレルと、初めて大台に乗せた(米エネルギー情報局=EIA)。このように需要は旺盛だが、産油量は増えていない。
相場が上がると、岩の中から油を搾りだす形で採取するシェールオイルが採算ラインになり、生産が増えるというのが近年のパターンだったが、そうはなっていないのは、石油産業を応援したトランプ政権から、環境を重視するバイデン政権に交代したことが響いているとみられる。
「高値→生産増→相場急落」という過去の「失敗」を繰り返したくないとの業界の判断もあるという。
原油高は日本経済に与える影響も小さくない。原油をほぼ輸入に頼るだけに、第一生命経済研究所の試算では、影響は小さくない。ドバイ原油先物価格を見ると、足元では1バレル=70ドル前後とWTIとほぼ同水準だが、このドバイ原油先物が21年後半に平均60ドル程度なら、20年(平均42.2ドル)と比べ21年後半から1年間の家計負担額は1.8万円、平均70ドルなら2.3万円、80ドルになれば2.8万円も増加する。21年度の日本の経済成長率も、ドバイ原油先物が平均60ドル程度なら0.1%程度押し下げ、70ドル、80ドル程度となれば、それぞれ0.17%、0.24%も押し下げることになるという。
同研究所は、コロナ禍に伴う消費者心理の低下に加え、「今後の個人消費の動向を見通すうえでは、原油価格の高騰を通じた負担増が遅れて顕在化してくることにも注意が必要であろう」と指摘している。(ジャーナリスト 白井俊郎)