起業の世界的拠点めざす神戸市 スタートアップ育成プログラムのオンライン化で参加枠を大幅拡大

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   地域の雇用促進につながるなどの経済効果が期待できることから、起業家やスタートアップ企業の支援に乗り出す自治体が増えている。なかでも積極的な取り組みを続けているのが神戸市だ。

   国内外の数多くの起業家に参加してもらうことで、多種多様な技術や知見をもって事業を発展させていこうという「スタートアップ・エコシステム」の拠点形成を強化する。その施策の一つで、米シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)大手の「500 Startups(ファイブハンドレッド・スタートアップス)」と連携して、2016年から取り組んでいる起業家支援プログラムの2021年版「500 Founder Academy」の参加者の募集を、7月9日に開始した。

   神戸市は、「他のスタートアップ支援事業とも連携し、より広範囲に成長機会を提供することを目指す」と話している。

  • 神戸市は起業の世界的拠点めざす(写真は、「500 Founder Academy」を説明する神戸市企画調整局新産業課の武田卓課長)
    神戸市は起業の世界的拠点めざす(写真は、「500 Founder Academy」を説明する神戸市企画調整局新産業課の武田卓課長)
  • 神戸市は起業の世界的拠点めざす(写真は、「500 Founder Academy」を説明する神戸市企画調整局新産業課の武田卓課長)

米VCと連携、新たなプログラムも展開

   2021年のプログラム「500 Founder Academy」が、前年までと大きく異なるのは、本格的なオンライン化で、参加者の規模を大幅に拡大したことだ。

   詳細を発表した神戸市企画調整局新産業課の武田卓課長によると、コロナ禍の中で実施した2020年のプログラムは、講義やメンタリングから成果発表までを全編オンライン化したところ、自由度の高い運営が可能になった。

   コロナ禍を受けて、「新型コロナウイルスと戦うスタートアップ」をテーマに募集。「遠隔医療サポート」や「個人の体調管理のためのソリューション」、「リモートワーク・学習サポート」、「オンラインイベントの効率的な管理と運営」などを領域とした企業が参集した。

   今回は、そのノウハウを生かし、さらに一歩進めた。テーマは設定せず、ジャンルも問わないが、参加するスタートアップ企業が世界各地に散らばることから、時間や場所に制限されずに受講できるよう、あらかじめ制作した動画とライブ配信を組み合わせるなど工夫したほか、より多くのスタートアップに500 Startupsが持つ成長のためのノウハウを学ぶコンテンツや、新たに500 Startupsのメンターらに随時相談できる「Ask Me Anything(AMA)」と名付けた試みも採り入れた。

   プログラムの終了後には、初の試みとして、神戸市独自で成功した起業家らをメンターに招いた「グローバル・メンターシッププログラム」を用意した。

   2022年3月に「デモデイ」(投資家や提携先を探す企業に対して支援を受けたスタートアップの製品・サービスや事業計画の発表会)を予定。ここでプロダクトやサービスを発表して、出資や支援の獲得、協業の相手を求めることができる。また、神戸市が手がけるオープンイノベーションの企画に参加できる可能性もあるという。

   参加者枠は、これまでの5倍の100チームに拡大。2期に分け、それぞれ50社とした。これまでと同様に、国内外のスタートアップ企業から幅広く応募を受け付ける。

   第1期の募集期間は7月30日までで、プログラムの実施は9月6日から10月1日までの予定。第2期は9月中旬~10月上旬を募集期間とし、11月中旬から12月上旬にプログラムを実施する予定。500 Startupsと神戸市が書類審査を行い、参加企業を選定する。

神戸市に拠点設ける有力企業も続々

   神戸市は、日本発の「スタートアップ・エコシステム」を、この地から生み出すことを目指し、500 Startupsと連携した短期集中型起業家支援プログラム「500 KOBE ACCELERATOR」を、2016年から開催してきた。

   市では、成長が見込まれる海外の起業家に最大1年間の在留資格を認め、外国人が起業しやすい環境を整える制度も設けているほど、手厚い。

   こうしたことから、参加者は2020年までの5年間に世界中から延べ1000社以上の応募があり、これまで計88社がプログラムに参加。年々海外からの参加者が増え、過去2年は半数を超えた。

   オンライン開催した昨年は過去最高の237社の応募数を記録。企画調整局新産業課の武田卓課長によると、参加企業の資金調達額は計約120億円。「プログラム参加前までは資金調達もままならない企業が多く、その意味でも意義あるプログラムになっている」と話す。

   このプログラムへの参加をきっかけに、市内に拠点を構える企業も現れている。武田課長は、神戸市と関係を深めている企業の事例を紹介。いずれも先端的な業務を担い、さらにイノベーションを深める可能性を秘めているという。

武田卓課長は、「この次の5年間で1000社を支援したい」と語った。
武田卓課長は、「この次の5年間で1000社を支援したい」と語った。

   海外の企業からは、米国の英語教育ベンチャーとして2017年にシアトルで創業した「Native English Institute(ネイティブ・イングリッシュ・インスティチュート=NEI)」が、2019年にプログラムに参加。日本進出の足掛かりとし、20年2月、神戸市に日本法人を設立した。同社はAIを使ったオンライン英会話学習で成長。世界で登録者を増やしており、日本ではITや製薬業界で導入が進んでいる。

   また、シンガポールのスポーツテック企業で、遺伝学などに基づきフィットネスプログラムを提案するアプリを開発した「ELXR(エリクサー)」も参加企業の一つ。18年のプログラムに参加。20年1月に神戸市に日本法人を設立した。このコロナ禍で、サービスの需要が高まっていると、順調なようだ。

   日本の企業では、京都で2014年に創業したAIベンチャーの株式会社HACARUS(ハカルス)を紹介。同社は16年のプログラムに参加して約13億円の調達に成功。その後、神戸市内に事業所を開設した。少ないデータから本質を読み解くという「スパースモデリング」による分析でAIを活用し、新しい診断・治療支援を実現した。

   16年設立の株式会社T-ICUは、病院向けに遠隔で集中治療医によるプロフェッショナルなアドバイスを提供する日本で唯一の会社。18年のプログラムに参加して約3億円を調達。コロナ禍の中で神戸市と連携を深め、今年に入って本社を芦屋市から神戸市に移転した。

   このような実績を踏まえ、武田課長は、

「この次の5年間で1000社を支援したい。これまで培ったノウハウを使い、スタートアップの支援広げていきたい」

と、抱負を語った。

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