食用油や小麦粉といった食品の値上げが相次いでいる。中国での需要増加などを受けて原料高となっており、企業努力でコストを吸収するのは困難な状況だ。
輸入牛肉の価格も上昇しており、家計が圧迫され、消費マインドの回復の足かせになりかねないとの懸念も広がっている。
食用油、砂糖、小麦、輸入牛肉......
家庭用食用油大手の日清オイリオグループ、J-オイルミルズ、昭和産業の3社は8月、家庭用食用油を1キログラム当たり50円以上値上げする。5月末時点で大豆が前年同期比8割高、菜種が9割高と国際相場が高騰しているためだ。
コロナ禍からいち早く経済が回復した中国で需要が拡大しているのが直接の要因で、中期的にも世界的な人口増加による需要増で、価格は高水準で推移する可能性がある。
各食用油メーカーは業務用でも値上げ。キューピーと味の素は、油を原料に使うマヨネーズを、7月出荷分から最大10%値上げしている。
家庭用小麦粉も、日清製粉グループの日清フーズ、ニップン(旧日本製粉)、昭和産業が7月から、1.5~4%程度値上げ。3社は家庭用パスタも2~8%値上げを表明している(実施時期は社により異なる)。
国内消費の約9割を占める輸入小麦は、政府が買い上げた上で民間企業に売り渡しており、4月の政府による価格引き上げが時間差で反映されるものだ。大豆の価格高騰につられる形で小麦の国際的な相場も上がっているほか、中国が豚の飼料用で積極的な買い注文を入れたことなども影響している。
製糖最大手のDM三井製糖ホールディングスの傘下2社が7月15日から、砂糖の出荷価格を1キログラム当たり6円(約3%)引き上げている。1月に続き今年2回目。天候不順やコロナ禍による輸送網の混乱で、主要産地のタイやインドからの供給が減るとの思惑などから、ニューヨーク市場の先物取引で4年ぶりの高値を付けており、そうした動きを背景に、現物も値上がり。
このため、日本のメーカーも製品価格に転嫁を余儀なくされたという。メーカーから仕入れる卸業者から、飲料メーカーや製菓会社に価格上昇の影響が今後、どこまで広がっていくか、関係者は注視している。
米国産牛肉も上がっている。冷凍ばら肉の卸売価格は4~5月には前年同月比1.7倍程度に高騰した。干魃に見舞われた豪州産の供給が減ったことで米国産に需要が集中したところに、コロナ禍から経済が回復してきた米国や中国で需要が伸びたためだ。
スーパーなどの店頭では豪州産が姿を消し、米国産がジワリ、値上がりしている。外食などはコロナ禍で営業自粛などとダブルパンチだが、コロナの影響が大きすぎ、牛肉価格上昇だけの影響は、逆に見えにくくなっている。
原因は経済の急回復、労働人口減に物流、天候も
値上がりを国際的な統計で確認しておくと、国連がまとめる食料価格指数(2014~16年=100)は21年5月、127.8と、12か月連続上昇を記録。1年前からは4割上昇したことになり、2011年9月以来、約10年ぶりの高水準となった。
この指数は穀物や食肉、乳製品などの国際取引価格から算出され、世界の食料全体の値動きを示す。6月は3.2ポイントダウンの124.6と、1年ぶりの低下になったが、なお高水準だ。
こうした価格上昇の理由は、個々の品目について一部説明したが、整理すると、コロナ禍から経済回復しつつある中国をはじめ米国などの需要回復が最大の要因だ。これに、コロナ禍による移動制限で農作業の担い手である外国人労働者が一部の国で不足し、生産に支障が出たり、同様に物流網が混乱してモノが流れなかったり、物流費が上昇している――なども影響している。豪州の牛肉など天候の影響を受けた品目もある。
ただ、食用だけでは説明できない要因も指摘される。たとえば、環境対策でディーゼル燃料に大豆や菜種の植物油を活用するケースが増えているし、トウモロコシやサトウキビから作るバイオエタノールも、ガソリンと混ぜてエコ燃料として使われる。このため、景気変動や天候の影響といった一過性の要因とは別に「構造的に需給が逼迫(ひっぱく)する可能性がある」(大手食用油メーカー)との指摘もある。
コロナ禍のためであれ、他の要因であれ、食品の値上がりは、世界では途上国を、国内でも低所得層を直撃するだけに、その動向から目が離せない。(ジャーナリスト 白井俊郎)