トヨタ自動車とSUBARU(スバル)が共同開発した新型スポーツカー「トヨタGR86」と「スバルBRZ」に、千葉県の「袖ケ浦フォレストレースウェイ」で試乗してきた。
いずれも発売直前のプロトタイプだが、ほぼこのまま発売するのは間違いないだろう。トヨタとスバルは2021年4月に2代目となる86とBRZを発表。今回はその、メディア向けの試乗会に参加した。
新型「GR86」は豊田章男社長の肝煎り
筆者の注目ポイントは二つあった。一つは、9年ぶりのフルモデルチェンジで、86とBRZがいかに進化したのか。そしてもう一つは、新型の86とBRZにどこまで走りの違いがあるのかだ。
とりわけ86は、今回の2代目から「GR」(GAZOO Racing)の称号が付き、GR86となった。GRはトヨタ最高峰のスポーツモデルであることを示している。
新型86は、モリゾウこと豊田章男社長の肝煎りで発売前に大幅な設計の見直しを行い、「走り」を磨いたという。それだけに、どんな走りを見せるのか、BRZと違いはあるのか。いつにも増して、ステアリングを握る期待感が高まった。
試乗会場となった袖ケ浦フォレストレースウェイは雨上がりの直後で、ドライ路面とウェット路面が混在していた。今回はGR86とBRZをそれぞれ限られた時間しか周回できなかったため、全貌を知り尽くしたとは言えないが、実力の片鱗を垣間見ることはできた。
まず、ボディーの剛性感と動力性能は大幅に向上していた。試乗車は6速ATしか選べなかったため、パドルシフトで2速、3速を中心に走った。FA型の水平対向エンジンは初代の2.0リッターから2.4リッターにボアアップしたため、低回転域からトルクが向上。レッドゾーンの7500回転まで一気に吹き上がり、低速コーナーからの立ち上がりは初代よりも鋭くなった。
最終コーナーを抜け、メインストレートでは2速ホールドで時速110キロに達し、3速にシフトアップ。あっと言う間に第1コーナーが迫るため、フルブレーキングで再び2速にシフトダウン。そこから右カーブの第1コーナーを抜け、第2コーナーを目指すセクションでは、リズムに乗り、思い切りアクセルペダルを踏むことができた。
フロント・ミッドシップに深く積んだスバルの水平対向エンジンは高回転域が気持ちよい。持ち味の低重心を生かし、路面に張り付くようにコーナリングしていく。実際に初代と比べ全高は10ミリ、重心と着座位置は5ミリ低くなっており、それだけでも運動性能は向上したといえる。
メーカーは0から100キロ加速が初代の7.4秒から新型は6.3秒に向上したと発表している。この進化はエンジン重量や車両重量を増加させることなく、パワーとトルクを向上させた成果だろう。ゼロヨン(0から400メートル)加速だけでなく、サーキットのラップタイム向上が期待できる。
奥深い「スポーツカーの走り」
GR86とBRZはエンジンやトランスミッションなどが今回も基本的に共通だ。アクセルの開度マップが両車で違うと聞き、驚いたが、全開で走れば大差はないだろう。
果たして操縦性、ハンドリングに明確な違いはあるのか。両車とも本的な走りは同じだが、私にはGR86のほうがタイトコーナーで意図的にパワーをかけることでリヤタイヤを流しやすいと感じた。
BRZも基本的に同じだが、こちらのほうがスバルらしく、クルマのスタビリティーが高い。ステアリングとアクセルワークによるリヤタイヤのコントロールと姿勢変化はGR86のほうが容易に感じた。
この違いは理論的にも説明できる。トヨタとスバルによると、初代86とBRZはダンパーと電動パワーステアリングのみ両社で部品を変更したが、残る部品は姉妹車らしく共有していた。
これに対して今回はダンパー、電動パワステだけでなく、フロントとリヤのスプリングレート、リヤスタビライザーの径や取り付け構造など、合計11項目の部品をトヨタとスバルそれぞれが変更したという。
このため、サスペンションはフロント・リヤのスプリングレート、ダンパーの減衰力ともGR86とBRZで異なっている。GR86のほうがBRZに比べ、フロントは柔らかく、リヤが固いセッティングだ。
この前後のサスペンションの違いからみても、トヨタのほうが曲がりやすく、スバルのほうが安定志向のセッティングといえる。両社が「トヨタとスバルで走りの味を大きく変えた」と、主張するのも理解できる。
スバルは新型BRZを今夏、トヨタは新型GR86を今秋発売するという。今回は限られた試乗だったが、発売後にじっくりと両車をテストし、その奥深い「スポーツカーの走り」を堪能してみたい。(ジャーナリスト 岩城諒)