値上げが続いている印象が強い銀行の手数料。だが、2021年秋には他行宛ての振込手数料を各行が相次いで値下げする。値下げ幅は大手ならば1件当たり55~120円となる。
政府の圧力を受けて嫌々ながら値下げに応じる側面があるが、銀行にとって経営環境の厳しさは相変わらずで、別の手数料の値上げを予告している銀行もある。
40年も据え置かれた手数料
三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクならば、値下げ幅は振込額が3万円未満では55~70円、3万円以上では110~120円となり、その結果として3万円未満の他行宛て振込手数料は現金でATMを使えば380円前後となる。
改定日は三菱UFJ銀行とみずほ銀行が10月1日、三井住友銀行が11月1日だ。同様の値下げは、地方銀行も含めて実施される。
今回の値下げは、全国の銀行を結ぶ共通の決済基盤である全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が、10月1日から銀行間の送金手数料を引き下げることに伴う対応だ。
これまでは送金額が3万円未満なら117円、3万円以上なら162円だった全銀ネット手数料について、一律62円となる。各銀行はこれに個別の経費などを上乗せし、顧客から受け取る手数料を決めている。
全銀ネットの送金手数料は、世の中のデジタル化が進む中でも40年以上も据え置かれたままだった。今回の値下げのきっかけとなったのは2020年4月に公正取引委員会が公表した報告書で、手数料が実際のコストを上回っていると問題視していた。
さすがに公取委から是正を求められれば無視はできず、減収を覚悟で銀行界が重い腰を上げた格好だ。
波紋を広げるゆうちょ銀行の手数料改定
超低金利が長期化するなか、銀行業界は本業の融資では儲けにくくなっており、これまで顧客サービスの一環として水準を抑えていた各種手数料の値上げも相次いでいる。
今回の振込手数料値下げはあくまで例外であり、全体としては利用者の負担が増える傾向には変わりがない。
それは融資業務が認められていなくても、運用益が超低金利の影響を受ける、ゆうちょ銀行も同様だ。そのゆうちょ銀行が、2022年1月17日に実施する手数料改定が波紋を広げている。
ゆうちょ銀の改定は多岐にわたるが、特に利用者への影響が大きくなりそうなのは、ゆうちょ口座でゆうちょATMを利用する際の料金だ。硬貨を含む預け入れや払い戻しをする場合、現在は手数料を取っていないが、新たに1件当たり110円を徴収する。また、駅や商業施設、コンビニエンスストアなどに設置してあるATMで預け入れや払い戻しをする場合にも、現在は無料だが夜間や休日など時間帯によって110円を取る。
かつて、国が運営していた郵便貯金は、あらゆる場所で誰でも利用できる公共サービスとしての性格を帯びていたことがあり、民営化された現在となっても、そういった期待は大きい。財布代わりに口座を使っている人も年齢が高い世代を中心に多いと見られ、硬貨を出し入れするたびに料金を徴収されると、強い反発が起きかねない。
経営体力をそがれ、余裕がなくなってきた銀行。利用者にとっては付き合い方を考え直す機会なのかもしれない。(ジャーナリスト 済田経夫)