光学大手、ニコンの株価が下落基調にある。2021年7月19日には約2か月ぶりに終値で1000円の大台を割り込み、972円となった。
日本株の物色先を探す海外勢の買いも入り、6月25日に1238円の年初来高値をつけたが、為替の動向なども踏まえ、収益回復に懐疑的な見方が足元で強まっているようだ。
1円の円高で年間2億円の営業減益
外国為替市場では7月15日に一時1ドル=110円、1ユーロ=130円をそれぞれ割り込み、円高方向に傾いた。円高はドルに対する円換算の収益が減る。ニコンの場合、1円の円高は年間2億円の営業減益要因となる。
ニコン株は円高の影響を受けてこの日、大引けにかけて売られ、終値と安値がともに前日終値比6.2%(68円)安の1026円となった。週明け19日も米長期金利の低下などから円高が進んだことで、さらに売られた。
ここでニコンの経営状況を確認しておこう。主力のデジタルカメラを擁する「映像事業」は、スマートフォンが年々性能を上げるカメラを搭載している影響で、もともと世界的に市場縮小を余儀なくされている。
そうした中で、ニコンは2017年3月期に国内従業員の1割にあたる1000人の希望退職者を募集するなど経営の効率化を進めてきた。しかし、その効率化が市場縮小ペースに追いつかないところへコロナ禍に遭遇した。映像事業はもちろん、それ以外の事業も不振に陥り、2021年3月期連結決算で過去最大の最終赤字344億円を計上することになった。
ただ、2022年3月期は、世界的にコロナ禍の最悪期を脱することが見込まれる。映像事業と、これと並ぶ収益をあげる「精機事業」(スマートフォンやテレビのパネル向け露光装置など)なども回復することで、最終損益は160億円の黒字に転換するとの業績予想を、2021年3月期連結決算と同時に5月13日に発表している。
証券会社は目標株価を引き上げたが......
ニコンはまた、2022年3月期に新たなセグメントとして、産業機器のデジタル化を進める「コンポーネント事業」をつくると発表しているが、これを証券各社が「成長に資する」として好感した。
野村証券は6月7日付のリポートで目標株価を1088円から1169円に、大和証券も6月15日付のリポートで同じく1000円から1300円にそれぞれ引き上げた。また、カメラ映像機器工業会がまとめたデジタルスチルカメラ生産出荷実績表によると、出荷台数は前年同月比で4月は37.1%増、5月は92.4%増。出荷金額では4月は2.1倍、5月は2.3倍と着実に回復している。この辺りの数値も6月25日の年初来高値につながったようだ。
ただ、デジカメの足元の動向は、2年前の水準に対しては出荷台数で半分程度、出荷金額で2割減という水準にとどまっている。回復度合いが年間で、どの程度となるか見通しにくいうえに為替の逆風が起きていることが株価の下落基調を呼んでいるとみられる。
株価の反転にはまず、足元の実績の積み重ねが求められそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)