「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
7月19日発売の「週刊ダイヤモンド」(2021年7月24日号)の特集は、「弁護士、司法書士、社労士 序列激変!」。文系エリートとされる3士業の内実に迫っている。
士業の序列1位は弁護士だ。その中でも頂点に君臨するのが、大企業のあらゆる依頼を引き受ける西村あさひ、森・濱田松本、TMI総合、アンダーソン・毛利・友常、長島・大野・常松の五大法律事務所だ。だが、東芝の「圧力問題」の調査にかかわった西村あさひの結論が、外部弁護士による再調査と正反対だったことから、利益相反リスクが露呈した。さらに五大事務所からの人材流出も増えている。
司法書士と弁護士の職域戦争「第3ラウンド」
弁護士業界に巨額の利益をもたらした過払い金の返還請求バブルが終わり、コロナ禍で売り上げ減に陥った中小法律事務所。その中で急拡大しているのがB型肝炎訴訟を多く手掛けるベリーベスト法律事務所だ。同事務所は新たな金脈として地方進出を見据えている。現在の49拠点を100以上に増やす目標を掲げている。また、弁護士法人アドバンスは、スポーツ選手の代理人や医療領域、宇宙ベンチャーの顧問など、新領域の開拓を目指している。それぞれ生き残りをかけて模索しているという。
幾度となく業務領域を争ってきた弁護士と司法書士。登記申請業務を独占してきた司法書士に対し、弁護士が起業したリーガルテック企業が参入、緊張が高まっている。
GVA法律事務所の山本俊・代表弁護士が起業したGVATECHが始めた、「AI-CON登記」は、商業登記の変更申請に関する書類の作成を自動化した。従来、司法書士に依頼していたものが、自力での申請が可能になるため、現在4000社が利用している。司法書士と弁護士との35年に及ぶ職域戦争の「第3ラウンド」の行方が注目されている。
パート2では、弁護士と司法書士、それぞれの出世とカネ事情を探っている。五大法律事務所では、1年目で年収1200万円と業界最高待遇にもかかわらず、退所する弁護士も後を絶たないという。激務に耐えられず、一般企業の法務部やより小さい法律事務所に転職するパターンのほかに、「組織の歯車で終わりたくない」とキャリアアップを図る若手もいる。入所10~15年目で、年収1億円を狙えるパートナーに昇格しても、待ち受けるのは厳しい売上げ競争だ。独立や他事務所へ移籍する弁護士は多い。
一方の司法書士業界は、過払い金バブルに次ぐバブル到来か、と期待されているのが、相続登記の義務化だ。今年4月に関連法が成立した。土地や建物の相続を知った日から3年以内に登記することが24年をめどに義務付けられる。
日本では登記がされておらず、所有者が不明になっている土地が全体の2割に上るといわれている。現在、不動産登記件数は年間1000万件超だが、一気に増えることが予想される。
コロナでの雇用調整助成金が社労士の追い風に
士業の中で最も試験が簡単だといわれる社会保険労務士。だが、いま猛烈な追い風が社労士業界に吹いている。それがコロナ禍での雇用調整助成金の申請業務だ。助成金申請の代行手続きは、社会保険労務士法で定められた独占業務の一つ。21年6月時点で、累計の支給金額は3兆8000億円を突破。報酬は受給額の20%が相場だから、すさまじいカネが社労士業界に流れたわけだ。
このバブルは終わったと関係者は見ている。次に社労士のニーズが増えそうなのは、三菱電機などの事件で社会問題化した、企業内の「無自覚パワハラ」だという。管理職教育にコンサルティング力の高い社労士の出番があるというのだ。
コロナ禍で従業員のワクチン接種対応と人員整理が新たな人事・労務担当者の課題になっている。その「めもない」解決策も特集では伝授している。
士業にも、さまざまな変化があることを教えてくれる特集だ。
第2特集の「埼玉vs千葉 勃発!ビジネス大戦」も面白かった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、東京の一極集中が見直され、埼玉と千葉への企業誘致が進む現状をルポした。埼玉県所沢市のサクラタウンに本社機能の一部を移転したKADOKAWA。埼玉りそな銀行が企業誘致の「黒子」として汗を流している。
一方の千葉では、柏エリアに先端産業が集積している。つくばエクスプレスの柏の葉駅周辺だ。東京大学柏キャンパスとの連携も進む。三井不動産が開発し、日立製作所などが進出した。
物流では、流山に大型案件が集中。物流銀座になる勢いだ。県全体ではダブルスコアで千葉が埼玉に圧勝する見込みだという。
このほかにも、テーマパークやスポーツビジネス、名門高校の卒業生「人脈」など、さまざまなジャンルで両県を対比し、読み応えがある内容だ。
2050年の中国を識者が予測
「週刊東洋経済」(2021年7月24日号)は、創刊7000号記念特集と銘打って、「2050年の中国」を特集した。7月1日に、中国共産党創立100周年の祝賀大会が開かれた中国。日本は急速に変わる超大国とどう付き合うべきか、世界の識者インタビューを交え、30年後の姿を展望している。
編集部では、中国の3つの変動要因と長期シナリオを挙げている。習近平主席の任期、改革の進展、台湾有事の変動要因。長期シナリオとしては、世界の覇権国家、衰えゆく老大国、内部瓦解の3つだ。識者インタビューの顔触れが豪華だ。
まず、歴史家のエマニュエル・トッド氏は「中国の未来はあまりにも不確実。人口減の影響は世界に広がる」と見ている。日本は、中国の衛星国にならないようにしながらも戦争は避けるべきだとしている。
ハーバード大学特別功労教授のジョセフ・ナイ氏は「米中逆転はありえない。中国の弱点はソフトパワー」と話し、日本の対中戦略のカギは強固な日米同盟だとしている。
また、経済学者のジャック・アタリ氏は「共産党の一党独裁は茨の道。イノベーションが枯渇する」と考えている。最大の課題は少子高齢化と資源不足で、中国を利用しつつ世界の問題の解決を、と訴える。
経営コンサルタントの大前研一氏は「中国はインド化するか、6つに分裂し連邦化する」という二つの突然変異シナリオを提示している。
一つは中国もインドと並ぶ世界最大の民主主義国家になるというシナリオだ。指導力に陰りが出た場合、独裁制を終わらせて人民による投票で指導者を選ぼうという流れが出てくる可能性があるという。もう一つは北京を盟主として上海や広東、四川など6つに分裂して、英国のように連邦化するというものだ。
どちらのシナリオも先行きは暗く、今後30年間で今がいちばん明るいと見ている。日本は巨大な隣国で稼ぎまくれ、という。これほど近くに巨大で肥沃な市場があるのだから、日本は中国を放っておけばいいという。米国の後ろについて中国に意地悪するのはやめたほうがいいとも。日本にそんな力はないという。日中間に不幸な時期もあったが、それ以外はおよそ1500年にわたり、うまくやってきたのだから、と大前さんは指摘している。
相続登記は任意から義務へ
「週刊エコノミスト」(2021年7月27日・8月3日合併号)の特集は、「変わる! 相続&登記 民法」。空き家、所有者不明土地問題に対処するための法律が今年4月に成立した。特に、問題の発生源である相続についてはルールががらりと変わった。そのインパクトと対応について、解説している。
「相続登記は任意から義務へ 放置すれば過料も」「遺産分割で一部権利の主張に期間制限」「未登記物件への固定資産税課税強化」などがその柱だ。
当該不動産を取得したという事実を知った日から3年以内に登記申請を義務化したのが、最も大きなポイントだろう。相続と登記について、Q&Aでわかりやすく解説している。相続登記の義務化については、「週刊ダイヤモンド」今週号も司法書士業界への影響について、ふれている。
改正民法には、所有者の一部、または全員が不在・不明の相続財産を保全・処分できる制度も新設された。共有物の管理者、相続財産清算人、新・相続財産管理人の3制度である。それぞれケースを設定して弁護士が説明している。
また、共有者がいっぱいいて利用が妨げられていた土地についても、共有解消促進策が導入された。都市の中にある所有者がよくわからない土地について、有効利用が進みそうだ。
もう一つの特集は「世界に飛び出す 日本発 EVベンチャー」。大阪の技術系人材派遣会社アスパークが開発したEVスーパーカー「OWL(アウル)は、停止状態から時速60マイル(約96キロメートル)まで2秒を切る。価格は3億8000万円で製造はイタリアのメーカーに任せた。反対に約20万円の3輪EVをインドで発売しようとしているのがテラモーターズだ。このほかに元トヨタ車体の技術者がタイで走行させた水陸両用EVもある。自動車メーカー以外からEV開発に乗り出した日本企業の挑戦に期待したい。(渡辺淳悦)