「働き方改革」と同時に、新型コロナウイルスの感染防止もかねて企業に広がった「テレワーク」だが、ここ最近は出勤を希望する人が増えているようだ。
理由は、1年半にもわたった在宅勤務に「テレワーク疲れ」を感じる人が多くなったというのだ。
本当だろうか。テレワークを、本来に実のある働き方にするにはどうしたらよいか。専門家やネットの意見を拾うと――。
「四十九日」家で喪に服す?「テレワーク・デイズ」
東京五輪・パラリンピックの開会期間中に交通混雑の緩和などに向け、政府が官民挙げて集中的にテレワークに取り組むよう協力を呼びかける「テレワーク・デイズ」が2021年7月19日から始まった=図表参照。しかし、いっこうに盛り上がっていないようだ。主要メディアで報じたのもNHKくらいのものだった。
そのNHKニュース(7月19日付)「五輪・パラ期間含む7週間『テレワーク集中的に』」が、こう伝えている。
「『テレワーク・デイズ』が7月19日から始まりました。政府は、東京オリンピック・パラリンピック期間中の交通混雑の緩和、それに新型コロナの感染拡大を防止するため、大会開催期間を含む19日から9月5日までの7週間を、官民挙げてテレワークに集中的に取り組む『テレワーク・デイズ』と定めています。
初日の19日、総務省でテレワークの普及を担当する部署は、出勤者を通常の2割ほどに抑え、オンライン会議も活用しながら業務にあたっていました。担当者は『多くの企業でテレワークの課題も見えてきていると思うが、この取り組みを、課題を乗り越え定着させるきっかけにしてほしい』と話していました。政府は参加する企業や団体の数を3000まで増やすことを目標にしていますが、これまでに参加を表明しているのはおよそ800にとどまっています」
総務省は、ホームページに参加企業の一覧を掲載、否が応でも参加させざるを得ない空気の醸成に努めたが、参加企業・団体は目標の3割にも達しなかったわけだ。
東京五輪を強行しながら、国民には自宅での仕事という自粛を求める「テレワーク・デイズ」。偶然だろうが、期間が「49日」=「四十九日」(忌明け)ということで、ネット上では、
「四十九日...喪に服すのかな。笑えない冗談だ」
などと猛批判を浴びた。
そのことをJ-CASTニュース会社ウォッチでは、2021年6月14日付の「政府が東京五輪強行で大会期間中はテレワークせよ! 「四十九日 家で喪に服せってか! 笑えない冗談だ」と怒り殺到」で、報じた。
参考リンク:「政府が東京五輪強行で大会期間中はテレワークせよ! 『四十九日 家で喪に服せってか! 笑えない冗談だ』と怒り殺到」(2021年6月14日付 J-CAST 会社ウォッチ)
「仕事の効率が下がった」「満足感がない」
こんななか、日本生産性本部が7月16日、在宅勤務の効率や満足度が落ちてきて、「テレワーク疲れ」を感じる人が増えているとする「働く人の意識調査(第6回) ポストコロナの社会・経済変化に懐疑的、コロナ以前に回帰か『テレワーク疲れ』に注視を」を発表した。
それによると、テレワーク実施率は20.4%で、前回調査(今年4月)の19.2%に比べるとほぼ横バイだった。しかし、最近1週間の出勤日数が「0日」(完全テレワーカー)だった割合は11.6%と、前回調査(18.5%)から約7ポイントも減少し、昨年5月の調査開始以来最少となった。
一方、3日以上出勤する人の割合は57.6%で、前回の48.8%より約9ポイントも増加した=グラフ1参照。政府は、東京都への緊急事態宣言の発令に伴い在宅強化を求めているが、むしろ在宅ワークをする人が減っているという結果になった。
在宅勤務で、効率が「上がった」と答えた人も前回の15.5%から13.4%に初めて低下した。逆に「下がった」と答えた人は8.3%から13.4%に増えた=グラフ2参照。在宅勤務の「満足度」についても、満足している人の割合は「どちらかと言えば満足」を含めても75.7%から70.2%に低下した。
テレワーク中に不安なことを聞くと(複数回答)、「仕事の成果が適切に評価されるか不安」(31.3%)、「仕事ぶり(プロセス)が適切に評価されるか不安」(24.1%)、「オフィスで勤務する者との評価の公平性」(21.9%)と、人事評価の項目が上位に挙がった。
また最後に、「コロナ禍収束後でもテレワークを行いたいか」と聞くと、「そう思う」と「どちらかと言えばそう思う」を合わせてテレワークを望む割合は74.1%となり、前回調査の76.8%より少し減った。
こうした結果について、日本生産性本部は、
「早い企業では昨年(2020年)1月からテレワークを実施しており、長い人では約1年半 にわたってテレワークを行っていることになる。これだけテレワークが長期化すると、労務管理の課題が重要になってくる。テレワーク実施率は変わらず2割程度で推移しているが、テレワーカーの週当たり出勤日数は増えてオフィス回帰が進んでいる。『テレワーク疲れ』を注視する必要がある」
と、分析している。
なお調査は、1都3県などで新型コロナウイルスの新規感染者数が増加傾向にあった7月5日~6日、20歳以上の企業・団体に雇用されている人1100人を対象に、インターネットを通じて行った。
何をテレワークし、何をリアルにするか
「テレワーク疲れ」が本当に進んでいるのだろうか――。インターネット上では専門家の、こんな意見があふれている。
日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター所長の石川智久氏は、こう指摘する。
「多くの企業の方に会いますと、テレワークの可否ではなく、何をテレワークし、何をリアルにするかに議論は変わってきています。うまくハイブリッドしている企業が生産性を上げているようです。また、在宅勤務で失われがちなコミュニケーションもITや面談方法で埋め合わせる企業も出てきています。テレワークを否定するよりは、テレワークで生産性を上げる方法やうまくハイブリッドする方法を考えるほうが前向きで良いと思われます。特に介護や育児を抱える労働者にとって、テレワークの可否はワークライフバランスの観点から死活問題です」
世界最大級のビジネス特化型SNSサービスを提供するLinkedIn(リンクトイン)日本代表の村上臣氏もこう述べた。
「海外企業と話していると、徐々にオフィスに戻るところも増えていますが、テレワークも継続する『ハイブリッドワーク』に向かうところが多いようです。コロナ禍以前は働き方改革の新しい形のオフィスとして、フリーアドレスやフレックスワークが話題でした。オフィスの中を用途別にゾーニングして社員が自由に選択するABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を導入する企業も増えています。これまでABWというとオフィスの中での改革、つまりフリーアドレスやフレックスタイムの話がほとんどでした。今後はこれらに加えて『在宅勤務』をアクティビティの一つとして捉えることになります。海外の例では、在宅勤務は『集中デー』として作業に没頭する。オフィスは議論やカルチャー醸成のためのイベントなどに使うという流れを多く見聞きします」
ソニーフィナンシャルホールディングスのシニアエコノミストの渡辺浩志氏は、こう話す。
「在宅勤務の最大の阻害要因は日本の雇用慣行にありそうです。日本では個々人の業務が明確になっていないことが多々あります。いわゆる『ジョブ型雇用』ではなく、会社所属することに意義がある『メンバーシップ型雇用』が多い。そのため、日本で在宅勤務を行うと、チームのトップがメンバーに仕事を割り振りにくい、メンバーも自分が何の仕事をしていいかわからないことが多くなり、生産性が下がってしまうことが懸念されます。
また、日本型雇用で育成されるのは『専門職』ではなく、職場教育をベースにした『総合職』であるため、人事評価では職務の成果より、年功序列や忠誠心に重きが置かれることも少なくありません。日本で在宅勤務が定着するには、日本の雇用慣行や人事評価制度を作り直す必要がありますが、これには時間がかかりそうです」
「テレワークは思いっきり成果主義だ」
テレワーク賛成派からは、こんな声が多かった。
「私はフリーのエンジニアでコロナ前からテレワークで仕事をしていますが、テレワークのほうが楽です。通勤や社内でのコミュニケーションがストレスなので。家で黙々とプログラムを書いているほうが、生産性でもメンタル面でも最高と感じています。結局は、職種による向き不向きもあると思いますが、性格による向き不向きもあると思います。現時点で感染対策として実施するのは大事ですが、コロナ後には柔軟に働き方を選択出来るようになると素晴らしいなと思います」
「性格による向き不向き、絶対あります! 同僚がオンライン会議で、テレワークだと一人暮らしだから毎日寂しい、と涙声で打ち明けたのには驚きました。私は、永遠に在宅勤務が続けばいいのにと思っている。内向的なので人と話すと疲れて、クールダウンが必要だ。テレワークが選択できるようになると、都市部に住む必要がなくなり、地方住まいで能力があるのに東京で働けない人材をテレワークで生かすことができる。通勤が短くなれば、余力が残ってデートしたり、子どもができたりで、少子化が解決するかもと思う」
「小さい子がいると、保育園の送迎とかあるし、テレワークだと本当ありがたいですね。通勤があると、フルタイムで働くことすら難しくなりますから」
「テレワーク最高!暑くても汗だくになって電車乗らなくていい。たまに会社行くと新鮮。今日は久しぶりに出社。今年3回目。出社の前の日は、遠足の前の日みたいな気持ちになります。こんなことは、以前は絶対になかったな」
一方、テレワーク反対派にはこんな意見もあった。
「みんなテレワーク万歳って言っているけど、それは思いっきり成果主義になるということでもある。だから、これが当たり前で入ってくる新社会人が社会の主力になる10年後くらいには、今テレワーク万歳と言っている私たちは、想像以上にドライに切られる可能性はありますね」
「業績を出せない人が切られることもそうだし、対面しないことで『情』の部分がどうしても希薄になるからね。『成果はイマイチだけど頑張っていたよなあ』みたいな『救ってあげよう』という気持ちになりにくいケースが増えてくる」
「テレワークって、最初はデメリットに考えが至らない層が手放しで喜んでいた。飲み会に誘われなくて楽! とか、自由に時間使える! とか。勘違いしているが、テレワークはコミュニケーション能力が高く、生活リズムの維持管理がしっかりできて、仕事の成果を目に見える形でどんどん出せる。あるいは、目に見えにくい成果を自らどんどん積極的にアピールできる......。そういうタイプじゃないと大変なのに」
「テレワーク制度、とてもいいと思いますよ。でも、お子様がいるおうちではお母さん達の悲痛な声も。子供を常に静かにさせないといけない。リビングで仕事をされるから、残りの家族は子ども部屋で固まって過ごすとか。オンライン会議があるからと掃除機もかけられないなど......。ご主人からコーヒー淹れてとか、秘書のような扱いを常にされると嘆いている方もおりました」
また、1年半もテレワークを続けていると、こんな事態に。
「1年半、ほぼテレワークだけど、人事異動で入れ替わったから同じ部署の2割ほどは会ったこともないな。仕事でやり取りしている他の会社や他部署の人も、半分は顔も見たことがない。すごい時代になったものだ。15年ほど前、外資系に転職した友人が上司はシンガポールに住んでいて会ったことがないと言っていたが、そんな時代になるとは思わなかった」
「コロナ禍後、外資に転職した友人も完全テレワークで面接ですらオンライン。同僚の誰とも会ったことがないそう。オンライン会議で画面越しには会うが、男性ですら美肌加工したりして、素顔は謎だと(笑)。テレワークといっても、今はほとんどが、会ったことのある人たち同士がオンラインでやり取りする働き方だと思うが、友人みたいな環境で長年働くとなると、どうなのだろうと思う」
(福田和郎)