ロシア情報機関が東京五輪を狙う理由は?
しかし、東京五輪の場合、ハッカー集団の中でも最も危険な連中の正体は、だいたいわかっている。ロシアの情報機関の組織だ。平昌五輪の時がそうだった。朝日新聞がこう続ける。
「英政府は昨年(2020年)10月に『ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が、東京五輪・パラリンピックの関係者や関係組織にサイバー攻撃を仕掛けていた』と発表した。発表では、2018年の平昌大会でもGRUによるサイバー攻撃があったと断定した。この時は、大会公式サイトがダウンして発券できなくなるなどの被害が出た」
英政府の発表によると、GRUが北朝鮮や中国人のハッカーを装って、韓国の放送局や競技会場にサイバー攻撃を仕掛け、開会式の放送内容の改ざんまで行った。しかし、平昌五輪組織委は攻撃を受けたコンピューターを交換するなどして、被害を抑えることに成功したのだった。これに関連し、米司法省は平昌冬季五輪などを標的にサイバー攻撃を仕掛けたとして、GRU所属の6人を起訴した。もちろん、ロシア側は全面否定をしている。
それにしても、なぜ平昌五輪はロシアに狙われたのか。そして、東京五輪を標的にしようとしているのか。主要メディアの報道をまとめると、こうだ。
世界反ドーピング機関(WADA)が2016年7月、「ロシア政府が2014年のソチ大会の前後にドーピングを組織的に隠蔽した」とする報告書を発表。この発表を受けてIOCが、2018年の平昌大会にロシアの国家としての参加を認めないことを決めた。
ロシア選手は個人としての資格での参加を余儀なくされた。そのことに対する報復というわけだ。そして、東京五輪でもロシアの国家としての参加を認めていない。ロシア選手は「ROC」(ロシアオリンピック委員会)所属という立場で、メダルを取っても国歌・国旗掲揚は行われない。このため、ロシア系ハッカーから、平昌大会以上の攻撃を受ける危険性が極めて高いのだ。
7月15日放送のBS 日テレの報道番組「深層NEWS:緊張高まる! 東京五輪がサイバー攻撃の標的に? 誰が何のために?」の中で、サイバー攻撃問題に詳しい小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター特任助教は、こう指摘していた。
「あらゆるものがサイバー空間に関連するようになった。ロシアは、軍事力で米国にかなわず、経済的にも存在感が小さいので、やる手段といえば限られている。反ロシアのウクライナに対しても大規模なサイバー攻撃を仕掛け、大停電を引き起こしている。電力企業の情報を調べて偽メールを送りつけ、パスワードを入手。いろいろなことを寒さの厳しい冬に夕方にやった。軍事作戦のように大規模かつ入念にやるのが、ロシアのやり方だ。東京五輪でやるのも間違いないだろう」
(福田和郎)