児童手当ボーナスに困窮家庭向けレジャー・ボーナスも! コロナ禍のドイツの子育て世帯支援策(高橋萌)

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   学校閉鎖→再開→閉鎖→交代制登校――。目まぐるしく変化する学校生活を経て、夏休み直前にようやく学校に通う毎日を取り戻した子どもたち。子どものいる家庭にとっては長い、長すぎる挑戦の日々でした。

   2020年3月以降、ドイツでは新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するために教育機関の閉鎖を含む厳格なロックダウンが実施されてきました。子どもたちが学校で授業を受けられなかった期間は約半年にもなります。学業の面でも、心身の健康面でも、そして経済的にもコロナ禍の大きなしわ寄せが子育て世帯へ向かいました。

   奪われた学習の機会は今後、長期にわたり子どもたちに深刻な影響を与えると懸念されています。それを一歩一歩取り戻すためにドイツ連邦政府は5月、総額20億ユーロ(約2640億円)の新たな青少年支援プログラム実施を決めました。学習の遅れ、デジタル学習環境の整備、児童生徒の健康維持を柱に、さまざまな支援が計画されています。

  • 学校は夏休み直前までロックダウンで閉められていた(筆者撮影)
    学校は夏休み直前までロックダウンで閉められていた(筆者撮影)
  • 学校は夏休み直前までロックダウンで閉められていた(筆者撮影)

コロナ禍のドイツの子育て世帯への支援策

   筆者の住む街があるノルトライン=ヴェストファーレン州では、2021年5月31日から再び学校に登校できるようになりました。クラス全員が顔を合わせるのは約半年ぶりでした。

「小学校って友達がもっとたくさんできるところかと思ってた」

   我が家には新型コロナウイルスのパンデミックの真っ只中に小学校に入学した息子がいます。マスクをして入学し、友達とふざけ合えば距離を取れと言われ、自宅学習期間は大量の宿題に追われ、バースデーパーティーにクラスメイトを呼ぶことも許されなかった学校生活1年目は、何もかも彼が思い描いていたものとは違っていました。もちろん、私たち親にとってもそうです。

   ドイツには、10歳以下の子どものいる二人親家庭が約320万世帯あり、そのうち68%が共働き世帯。一人親家庭は58万世帯で、そのうち90%が母親と同居しています(2019年、ドイツ連邦統計局)。

   つまり、少なくとも250万世帯が学校閉鎖と仕事の板挟みを経験しました。もちろん、共働き世帯でなくてもそれぞれに大変な苦労があったことは言うまでもありません。

   そんなふうに突然、家庭内が緊急事態となったロックダウン中のドイツで、連邦政府が打ち出した支援策が、こちらです。

【コロナ禍のドイツにおける主な子育て世帯支援策】

・児童手当てボーナス
児童手当を受け取っている全ての子どもが対象。児童手当が入金される銀行口座に自動的に振り込まれ、2020年に子ども一人当たり300ユーロ(約4万円)、2021年5月に一人当たり150ユーロ(約2万円)とこれまで2回支給された。
・子どものための病欠休暇の拡充
子どもの病欠を理由に認められる有給の病欠休暇。二人親家庭で子どもが一人の場合、片親が取得できる日数の上限が年間20日間から30日間に、一人親なら40日間から60日間に拡充。学校や幼稚園の閉鎖中または隔離期間中、12歳以下の子どもの世話をするために仕事を休む場合も申請できる。
・子どもの世話をする親の所得を補償
学校や幼稚園の閉鎖中、または隔離期間中に、12歳以下の子どもを世話するために仕事を休まざるをえなかった場合、二人親家庭はそれぞれ最長10週間、一人親家庭は最長20週間分を申請できる。所得損失分の67%が補填される。
・育休中の給付金、算出期間の調整
産休・育休中の給付金は、産休に入る直前の所得から算出するが、2020年3月以降、所得の減少があった場合は負の影響を受けないように算出期間を調整。

学習の遅れを取り戻せ!教育分野に約2640億円の追加支援

   なかでも、一律に現金が給付された児童手当ボーナスの反響は大きく、「これでタブレットを買ってあげられる」「3人兄弟の三食分の食費だってばかにならないんだから」と歓迎する声を聞いた一方で、「選挙対策のパフォーマンスだ」「金額が十分ではない」「一人親世帯の負担はもっと深刻、同様の支援では足りない」などの批判も上がりました。

   私自身はコロナ支援策の内容を見て、「収入が激減したとしても、命までは取られなさそうだ」と、ホッと胸を撫で下ろしたものです。先行きの見えない状況において、簡単にアクセスできるセーフティーネットの存在は重要だと改めて感じました。

学校再開後は、週に2回のテストで陰性の生徒のみが出席できます。低学年は綿棒を飴のように舐める唾液採取型のPCR検査を受けます。
学校再開後は、週に2回のテストで陰性の生徒のみが出席できます。低学年は綿棒を飴のように舐める唾液採取型のPCR検査を受けます。

   今年5月、ドイツ連邦政府は新たに20億ユーロ(約2640億円)を教育分野に追加支援することを決定しました。この支援プログラムは「キャッチアップ・プログラム」と呼ばれ、学習の遅れを取り戻すことと、そして児童生徒の精神的なストレスの緩和にフォーカスしています。

   「およそ4分の1の生徒に大きな学習の遅れが見られる可能性がある」と、この追加支援に先立ってアニヤ・カルリチェク教育研究省大臣は危機感を示していました。まさに我が家のように子どもが低学年、しかも移民の背景を持つ家庭や、進学試験を控えた高学年の子どもを持つ家庭で、今後の学業への影響が真剣に懸念されています。新学期から一斉に開始される予定の補習や水泳コースなど、集中的な学習機会が増えるのは、親としては大歓迎です。

   また、貧困家庭や所得の低い家庭向けには子ども一人当たり100ユーロ、一度限りの「子ども向けレジャー・ボーナス」を8月に支給することも決定しました。

   子どもの心理的な危機、精神疲労を救うことも、喫緊の課題です。我慢を強いられてきた子どもや若者が夏休みに少しでもリフレッシュして、新学期を迎えられますように。(高橋萌)

高橋 萌(たかはし・めぐみ)
高橋 萌(たかはし・めぐみ)
ドイツ在住ライター
2007年ドイツへ渡り、ドイツ国際平和村で1年間の住み込みボランティア。その後、現地発行の日本語フリーペーパー「ドイツニュースダイジェスト」に勤めた。元編集長。ドイツ大使館ブログでは「ドイツ・ワークスタイル研究室」を担当。サッカー・ブンデスリーガ大好き。日本人夫とバイリンガル育児に奮闘中。
Twitter: @imim5636
神木桃子(こうぎ・ももこ)
神木桃子(こうぎ・ももこ)
ドイツ在住ライター
島根県生まれ、東京・多摩育ち。物事の成り立ちを知りたいと大学では有機化学を専攻。小売業界でのオーガニック製品や地域産品のバイヤーを経て、2014年よりドイツに移住。「もっと心地よくグリーンな暮らしへ」をテーマに、ドイツのマーケット情報やトレンド、ライフスタイルについて執筆活動中。3歳になる娘と日本人の夫との3人暮らし。
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