首都・東京の地下交通を担う東京メトロ(東京地下鉄株式会社)が、株式上場に向けて具体的に動き始めた。
大手私鉄の一つにも数えられる東京メトロは、1986年に完全民営化の方針が閣議決定され、2004年の株式会社化も上場が前提だったが、株主である国と東京都の利害調整が難航していた。それがここに来て急転、決着したのだ。なぜか――。
2021年7月15日、赤羽一嘉国土交通相と小池百合子東京都知事がオンラインで会談し、国と東京都が、東京メトロの株式を同時に半分ずつ売却する案に合意した。この案は、会談に先立ち国交省の交通政策審議会が赤羽国交相に提出した答申の中に、東京メトロが上場する際の株式の売却方法として盛り込まれていた。
新線建設への影響力を維持したい東京都
東京メトロの前身は、1941年に発足した営団地下鉄(帝都高速度交通営団)。その名称と発足時期から連想できるように、戦時下の統制管理として、複数の民間企業が経営していた首都の地下鉄を一元化する目的があった。こうした経緯があり、東京メトロの株式は国が53.4%、東京都が46.6%を保有するに至った。
9路線で計195キロに及ぶ東京メトロは、JRや他の私鉄とも相互乗り入れを実施して東京の鉄道ネットワークの中核を担っており、鉄道事業者としても大手だ。そのため、上場して株式を売却すれば、国と東京都にとって確実な財源となりうる。
国は2011年に起きた東日本大震災を受け、復興財源に充てるため2027年度までに株式を売却することを決めていた。
一方、東京都には別の考えがあった。かつては東京都の「直営」である都営地下鉄の経営を東京メトロと一元化させようとしていた時期もあった。国が株式を売却した場合には、その分を東京都が買い取る意向を示したこともあった。
東京都がこだわっているのは、地元の要望が強い地下鉄新線の建設に向けて、東京メトロに一定の影響力を確保しておきたかったからだ。
こじれた国と東京都の意向を整理する場になったが交通政策審議会だった。そこで今回の答申では株式売却方法のほかにも、東京都が求めていた(1)有楽町線を豊洲駅から住吉駅まで延伸する計画(2)南北線白金高輪駅から品川駅まで新線を敷設する計画について、東京メトロが建設.運営の主体になることが適当との文言も盛り込まれた。