東京都をはじめ首都圏でインド由来の変異ウイルス「デルタ株」が爆発的に広がっている。東京都は2021年7月16日、新規感染者が1300人を突破した。
デルタ株の恐ろしさは、働き盛りの50代以下を直撃するばかりか、10代の子どもにも広がるところだという。
いったい、どうやって防げばよいのか――。
「コロナ優等生国」豪州のワクチン広告が怖すぎ!
新型コロナウイルスの感染防止対策の「優等生国」だったオーストラリアで、若者にワクチン接種を呼びかける連邦政府保健省のテレビ広告が、世界的な物議を醸している。
広告は全部で30秒間。最大都市シドニーで2021年7月11日から放送された。若い女性が病院のベッドで人工呼吸器につながれて、苦しそうな表情であえぎ続ける=下の写真参照。
その映像とともに、メッセージが表示される。「新型ウイルスに感染する可能性は誰にでもある」と警告したうえで、「外出を控えてPCR検査を受け、ワクチン接種の予約を取りましょう」と呼び掛ける内容だ。この映像が「怖すぎる!」と批判を受けているのだ。
英国BBCニュース(7月13日付)「Covid Australia: 'Graphic' vaccine advert sparks backlash」(オーストラリアの新型コロナ:〈生々しい映像の〉ワクチン広告が反発を引き起こす)が、こう伝えている。
「オーストラリア政府の広告は、ベッドにいる女性が人工呼吸器に接続されているものの、空気を切らしていることを示している。『新型コロナは誰にでも影響を与える...ワクチンを予約してください』というテロップが流れる。しかし、批評家たちは広告が不当に若者に不安感をあおっていると批判する」
オーストラリアは、今年5月まで感染を抑え込んでいたが、6月中旬、インド由来の変異ウイルス「デルタ株」の侵入を許し、シドニーを中心に再びロックダウンに追い込まれた。その際、保健当局は街中の監視カメラを使って感染経路を徹底的に追及、デルタ株がすれ違っただけで感染することを突きとめた。
その経緯は、J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部でも2021年6月29日付「すれ違っただけで感染するインド型変異株 ルール破りのIOCと組織委に東京五輪を任せられるか!(1)」と、「すれ違っただけで感染するインド型変異株 ルール破りのIOCと組織委に東京五輪を任せられるか!(2)」で報じた。
それほど恐ろしいデルタ株だから、保健当局はショッキングな映像で若者にワクチン接種を呼びかけたわけだ。
BBCニュースはこう続ける。
「シドニーはロックダウン3週目に入った。しかし、『このように苦しむ映像をテレビで流すのは完全に不快だ』『無神経な脅し作戦だ』というツイートが殺到している。連邦政府のケリー主席医務官は記者会見で、生々しい描写が含まれていることを認める一方、『それが狙いだ』と語った。同国ではワクチン接種を完了した国民は全体の9%にとどまっている。特に40歳未満の若者の接種が遅れているからだ」
特に若者たちに、デルタ株の恐ろしさを見せつけて、ワクチン接種の大切さを訴えようというわけだ。
基礎疾患のない50代でもいきなり重症化
東京都を中心にした首都圏でも「デルタ株」にどんどん置き換わっており、感染が急拡大している。7月15日、都のモニタリング会議では4週間後には新規感染者が2406人に達し、これまで最多だった第3波のピーク時の1816人を大きく超えるという恐ろしい数字を示した。
一方、65歳以上の高齢者はワクチン接種が進んでいるため、感染者の中心は働き盛りの50代以下に移っている。いわゆる「50代問題」だ。
産経新聞(7月15日付)「都内感染『50代問題』重症者急増、最多3割に」が若い層に重症者が増えていることを、こう伝える。
「都内の新型コロナ患者で、50代の重症者が6月下旬以降に増加し、全体の約3割を占め世代別で最多になっている。50代は入院者数の割合でも約2割と最多で、感染が急拡大した年明けの『第3波』や春の『第4波』にみられなかった傾向だ。都は『50代問題』と称し、基礎疾患を持つ人が多くなる50代にワクチン接種を優先的に進める方針だ」
東京都の公表データによると、7月に入り、重症者では50代が60代を上回り、全体の4割近くに達した。入院者数の世代別割合をみても、50代が6月以降、最多の状況が続く。30代、40代の入院者数の割合も増えて、50代以下で全体の約7割を占めるようになった。
産経新聞が続ける。
「都内で置き換わりが進むデルタ株の影響により、20、30代で肺炎を発症する中等症患者も増えており、症状悪化の『若年化』が病床を逼迫させる新たな懸念材料となっている。東京都品川区の昭和大学病院では7月12日、肺炎が悪化し、重症となった50代患者が別の病院から転送されてきた。酸素を吸入しながらストレッチャーに乗せられたこの患者は、CT検査を受けた後に集中治療室(ICU)に運ばれ、気管挿管して人工呼吸器を装着することになった」
同病院の相良博典(さがら・ひろのり)院長は、産経新聞の取材に、こう答えた。
「これまで、重症者といえば高齢者と基礎疾患がある人という印象だったが、状況は変わりつつある。6月下旬以降、基礎疾患を持たない中年層でも重症化リスクが高まっていると感じている。デルタ株では、中年層が短期間のうちに重症化することが多い。『若いから重症化しない、発症しない』というのは従来株での認識で、過去の話だ」
と警鐘を鳴らす。
初期は風邪のように軽くて気づきにくいが...
50代以下で若いからといって、決して油断ができないのが「デルタ株」の怖いところだと専門家たちは口をそろえる。特に、10代の子どもへの感染の広がりを心配する専門家が多い。
テレビ大阪(7月13日付)「大阪第5波... 10代のクラスターに警戒!デルタ株の脅威を医師が語る」の取材に応じた大阪市立総合医療センター・白野倫徳(しらの・みちのり)医師がこう語る。
「デルタ株は、感染力は従来株よりさらに強力になっている。〈感染力の強さ〉と〈ワクチンの効果〉のどっちが勝つか、先が読みにくいが、ワクチン接種が進んでいない、若い世代での感染が結構広がると思います。高校・中学校のクラスターもしばしば起こっています。今後、10代の感染が増えるかもしれません」
デルタ株の症状は初期が風邪のように軽いのに、一気に重症化するのがやっかいだという。白野医師が続ける。
「デルタ株の症状の特徴は、軽めの風邪のようです。味覚や嗅覚障害が起きにくいのではないかという報告もあり、ほかの風邪と区別がつきにくい印象です。決してワクチンを打ったから大丈夫という決断はしないほうがいい。今は第4波みたいに重症病床がひっ迫する前に、やっと抑えることが出来ている時期。このまま人の流れが増えて、若い人の感染が増えて高齢者に感染する流れにならないように、一人ひとりが気をつける段階です」
厚生労働省のアドバイザリーボードのメンバーでもある東京都北区の保健所所長・前田秀雄氏も、テレビ朝日(7月15日付)「報道ステーション」に出演し、デルタ株のこどもたちへの感染が心配だと語った。
「感染が非常に多く広がっているのは20~30代、重症が広がっているのは40~50代になります。入院する方は40~50代が多い。一方で20代は非常に軽症で、自宅療養や無症状の人が多い印象です。それ以外に、従来株では広がりにくかった子どもたちの間でも感染が広がり始めているところに非常に懸念があります」
そして、こう強調した。
「子どもたちの間で感染が広がることによって、学校での集団感染などが発生すると、子どもから親の世代に広がるでしょう。親の世代は社会的に活発に仕事をしているし、兄弟の間で感染すると、他の学校や児童施設の中で感染が広がってしまう懸念があります。そうした『開かれたクラスター』になりかねない恐ろしさがあります」
「開かれたクラスター」とは何か。前田氏はこう説明した。
「高齢者施設などでは、そこの入所者の間での集団感染で収束する場合が多いですが、子どもや若者たちのような、社会的な交流・活動が活発な人の間で感染が広がると、その人たちからさらに感染が広がっていく。この〈開かれたクラスター〉が発生することは要注意です。特に、これからは夏休み、オリンピック期間ですので、より注意が必要になります。この夏だけは静かに過ごしていただきたいと考えています」
(福田和郎)