コロナ禍で苦しむ中小企業がひしめく東京都
――中小企業基本法も生産性向上の阻害要因なのか。
アトキンソン氏「同法では、製造業は従業員300人以下、小売業は個人などと中小企業を定義し、補助金など手厚い優遇策を講じてきた。このため経営者は優遇策を目当てにし、企業規模を拡大しようとする意欲がそがれている。米国やドイツのように定義を500人まで引き上げるべきだ」
――最低賃金の引き上げは生産性向上につながるのか。
アトキンソン氏「日本の最低賃金は先進諸国で最低レベル。引き上げないと経営者が本来払うべき賃金を支払わず、付加価値の創出額が潜在能力よりも小さい生産性の低い中小企業の経営モデルを温存させてしまう」
――コロナ禍でも21年度の最低賃金を引き上げるべきか。
アトキンソン氏「日本でもワクチン接種が加速しており、景気は回復していく。今年度は3%以上引き上げていかないと理屈に合わない。最低賃金の引き上げは個人消費の活性化や格差是正にもつながる。コロナ禍の打撃は宿泊・飲食・生活関連業に集中しているが、こうした業種が生み出す付加価値は国全体の5%にとどまる。これら一部の業種には支援策を講じつつ、経済全体のために引き上げは必要だ」
――最低賃金の決め方にも問題があるのか。
アトキンソン氏「中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)で、労使間の駆け引きや力関係で決めるのは合理的ではない。最低限の生活を保障するという『社会政策』ではなく、労働分配率はどうあるべきかなど『経済政策』として捉えるべきだ。英国の低賃金委員会のように経済学や統計学の専門家による科学的分析に基づいて決めるべきだ」》
菅首相への影響力が非常に強いとされるアトキンソン氏の主張を読むと、今回の中央最低賃金審議会の論議で、最後に公益代表委員が示した「公益見解」とよく似た内容であることに気づく。
また、労使間での話し合いに否定的な考え方も、官邸が介入した手法と同じだ。ということは、今後、中小企業の淘汰も狙っているということなのだろうか。
(福田和郎)