首相のブレーンの「中小企業亡国論」とは?
一方、産経新聞(7月15日付)「賃金引き上げ、コロナ禍では失業増加の副作用も」は、菅政権のもっと恐ろしい意図に懸念を示している。「ゾンビ企業」といわれる生産性の低い中小企業の淘汰(とうた)を考えているのではないか、というわけだ。
「(最低賃金の大幅な引き上げは)雇用環境の改善につながると期待されるが、人件費の上昇はコロナ禍で打撃を受けた企業を直撃し、逆に失業や設備投資の抑制といった副作用も生む、もろ刃の剣となりかねない。生産性向上のため経営が行き詰まった『ゾンビ企業』を淘汰する政権側の狙いも一部で指摘され、拙速に進めれば景気の持ち直しを後ずれさせかねない。出口が見えない日本経済にとって相当な〈劇薬〉といえる」
産経新聞が、「ゾンビ企業の淘汰」と指摘するのは、菅首相が信奉するブレーンである経済アナリストのデービッド・アトキンソン氏(文化財の補修を手掛ける小西美術工芸社社長)が、かねてより「中小企業不要論」を説き、生産性の低い中小企業を大胆に減らして再編成すべきだと主張しているからだ。
アトキンソン氏は「最低賃金の3%引き上げ」を決めた政府の成長戦略会議の有識者メンバーの一人である。
時事通信(7月9日付)「日本再浮上に賃上げ必須 菅首相ブレーンのアトキンソン氏に聞く」が、今回の最低賃金引き上げの「仕掛け人」であるアトキンソン氏に、事前にインタビューした。
「沈みゆく日本経済を救うには、労働生産性の向上しかないと提唱するのが、政府の成長戦略会議の有識者メンバーを務めるデービッド・アトキンソン氏だ。
著書「日本企業の勝算」では、大企業の半分にとどまる中小企業の生産性向上が急務と訴え、最低賃金の引き上げを機に安価な労働力に依存した経営モデルの転換を促す必要があると主張する。菅義偉首相のブレーンとして知られるアトキンソン氏に日本再生の方策を聞いた」
と、こう聞いている。
《――なぜ中小企業の生産性向上が何よりも重要なのか。
アトキンソン氏「社会保障費の負担が増えるなか、現役世代の賃金水準がそのまま上がらなければ生活は苦しくなる。賃金をどう上げるのかは死活問題で、そのためには労働生産性の向上が必要だ。日本では就業者の約7割が中小企業で働く。中小企業に頑張ってもらわないと、大企業だけ生産性を向上させても全体の水準は上がらない。
その際、重要なのは企業の規模だ。『規模の経済』といって経営規模が大きくなればなるほど生産性が高まるのは経済学の大原則。しかし、日本企業の85%は平均社員数3、4人の小規模事業者で、先進諸国と比べて小さすぎる。社員3、4人の会社にビッグデータ戦略などできない。連携や合併も含めて中小企業の規模を大きくしていく。淘汰ではなく、企業の成長を促進しようと訴えている」