膨張する「コロナ予算」の拡大に前途は多難
矢野氏は第2次安倍政権が発足した12年12月から約2年半、菅義偉官房長官(当時)の秘書官を務めた。官房長官時代、そして菅政権発足後も足繁く官邸に通う姿が目撃されており、財務省にとっては貴重な官邸とのパイプ役を担ってきた。
他方、政策スタンスとして矢野氏は省内きっての財政再建論者として知られる。財務省関係者は「『おかしい』と感じれば、たとえ相手が上司や閣僚であっても歯に衣着せぬ口調で糾弾する」と証言し、別の関係者は「直言の人」と評する。
主計局長就任後も新型コロナウイルス対策を名目にした野放図な予算拡大に強く抵抗し、菅首相にも度々、諫言を呈してきたといわれる。それにも関わらず、官邸が矢野氏の事務次官昇格を承認したのは菅氏の信任がいまだに厚いことを意味している。
過去に例のないコースで財務省トップに立った矢野氏。しかし、その前途は多難だ。2021年度の一般会計総額は当初予算段階で100兆円を超えて過去最大。秋までの衆院選をにらみ、与党内では大型の経済対策を盛り込んだ補正予算を求める声も高まっている。
矢野氏の諫言も当面の支持率回復に躍起になる菅政権に無視されることも少なくない。財政再建論者は予算の肥大化に歯止めをかけることができるのか。矢野氏の真価がさっそく問われる。(ジャーナリスト 白井俊郎)