新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、多くの企業は各業務のオペレーションの見直しを迫られた。
テレワークによる在宅勤務の導入はその代表例だが、それは単に執務の場所を会社以外にすればいいといった単純なものではなく、然るべきオペレーション態勢を敷くことが求められ、その成否は業績に直結する。BPO(Business Process Outsourcing=ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を担うパーソルテンプスタッフ株式会社は、得意のアウトソーシングのノウハウを駆使して顧客企業でテレワーク化をスムーズに推し進めて評価を高め、ニューノーマル時代の成長株として注目を集めている。
同社のBPO事業とは何か――。取締役執行役員 BPO領域長の市村和幸氏と、BPO領域事業管理本部の本部長、上原加寿子氏に、コロナ禍によるBPO市場への影響や同社のこれまでと今後の取り組みを聞いた。
人材派遣業から発展、公共機関も顧客に
「BPO」とは、業務やビジネスプロセスの外部委託(アウトソーシング)のこと。パーソルテンプスタッフは、BPO事業を受託する側になる。
BPOには、顧客先に常駐して業務を委託する「オンサイト型」と、BPO事業者が自前でオペレーションセンターなどの施設を設けて業務を行う「オフサイト型」の2つに分けられる。
同社がBPOの専門部署を立ち上げたのは2010年4月。上原氏は、
「それまでは人材派遣業が主な事業でしたが、顧客企業から『業務も管理してもらいたい』というご依頼をいただくようになったのがきっかけ。オンサイト型BPOを始めた」
と説明する。
企業や自治体でアウトソーシングが広がるなか、顧客先で人材派遣と業務管理を共に請け負えるパーソルテンプスタッフのようなオンサイト型のBPO事業者は少ない。同社は人材派遣業でのノウハウの蓄積という強みがあり、BPO事業はこの10年間に着実に成長。「売り上げで年15~20%の成長率」(上原氏)が続いている。
成長が加速したのは、当初民間企業中心だった市場が自治体などに拡大したことだ。いまでは、公共部門の業務がBPO事業の半分を占めるようになった。なかでも多いのが窓口業務。「民間のやり方で窓口での業務を行うようになって、利用者からの評判が高まり、年を追って案件が増えてきた」(上原氏)。
「人材派遣からの切り替えでアウトソーシングしていくパターンと、公共事業である自治体からの案件を柔軟に受けられるように整えてきたことの、2つがあって成長を続けられた」と、上原氏はみている。
人材派遣業からのノウハウが発揮されている例の一つは、コミュニケーションの重視だ。市村氏は、
「われわれの強み、また特徴は、お客様先で業務に従事して、社員の方のとなりで、いろいろなコミュニケーションをとれるということ。そうした中で業務を行い、そのアウトプットをお返しする。それが、わたしたちのモデル。人材会社から派生したアウトソーシング事業としての特徴ではないかと認識しています」
と話す。
コミュニケーションは、コロナ禍でのさまざまな対応の場面でもキーファクターであり、今後のニューノーマル時代でも重視されるべきと強調する。
臨機応変に対応できる設計
そうしたなか、成長の行く手を阻んだのが、新型コロナウイルス感染症の流行だった。2020年4月の最初の緊急事態宣言では、顧客企業から「できるものだけでも在宅でやってくれ」という要請があり、対応に追われた。
上原氏は、
「顧客先のチームには管理者のリーダーがいて、お客様と密にコンタクトをとりながら、テレワークでも可能な業務の切り分けを即座に行いました。なかにはお客様先のネットワークでつながなければならないケースもありましたが、弊社で環境を整えました。また、どうしても書類による処理があり出社が必要なケースでは、リーダーが主体となってスタッフの出勤の順番を決めるなど、現場優先でマネジメントしてきました」
と振り返る。
ふだんから良好に努めてきたコミュニケーションが、うまく機能したわけだ。
さらに長期化するコロナ禍に、BPO事業もそれに応じた仕様も整い、上原氏は「いまは、在宅とオンサイト(勤務)のハイブリッドが非常に増えている」と説明する。
コロナ禍での迅速な対応で注目を集めたパーソルテンプスタッフのBPO事業だが、市村氏は「コロナ禍ばかりではなく、何ごとにも臨機応変に対応できる設計である」と語る。
「アウトソーシングのビジネスなので、受託する時にしっかりとその業務を分析して可視化するなどして業務設計できるというのが、これまでの取り組みの中で蓄積してきた力。いろいろ創意工夫を重ねてきた積み重ねがあって、今回、在宅への切り替えにあたっては、そうしたノウハウを生かしてうまくスイッチングできたと思っている。これからも、いろいろなノウハウを蓄積していかなければならない」(市村氏)
ソリューションを多様化
コロナ禍を契機として多くの企業で導入されたテレワークを機に、今後のニューノーマル時代には、働き方が大きく変わることが予想される。パーソルテンプスタッフのオンサイト型BPO事業もそれに合わせたフォーマットの更新が見込まれる。市村氏はそのアウトラインについて、こう説明した。
「コロナ禍によって世の中の構造が変わり、企業は変革を迫られている。それに応じてわれわれがお客さまに提供できるサービスやソリューションも増え、ビジネスチャンスが広がりつつある。たとえば、すでに東京での仕事は東京でやらなければならないというような制約がなくなり、業務を地方に持っていくこともできるようになっている。(BPOでも)テクノロジーの活用は非常に進んでいて、すでに企業のほうでもそのあたりの抵抗感が薄れハードルは下がっている。セキュリティなどのケアを十分慎重にしながら、新しい概念で仕事を実行する場所を変えていくということは可能。そういうことにトライする動きは確実に加速していくと考えている」
勤務場所の変化に応じたソリューションの例として、市村氏は、業務の「シェアリング」を挙げた。「一つの業務を一人がやるよりも、適切に分解して、いろいろな企業の同じ業務を統合し、数人で分担して行うことができるはず。それによりコストの削減、また、生産性向上の効果が見込まれ、成果が実証されれば、導入が加速することが考えられる」という。
一方、ニューノーマル時代にあっても、変わらず維持すべきものは「コミュニケーション」だ。「コロナ対策の経験から、リモートワークでも品質を下げずに業務することが可能ということがわかったが、人間、仲間と会っていないとさみしさを感じるもの。人と人とのつながりで生じるモチベーションとか相乗効果を軽視するべきではない」と市村氏。チームでオンサイト型による業務を請け負う同社のBPO事業では、「チームワークを醸成する」ことも役割だ。「今後のやり方としては、試行錯誤を重ねながら工夫をしていかなければならない」という。
上原氏も、
「(コロナ禍前までは)スタッフは、オフィス内の隣同士でチェックし合う業務フローが多く、自然とコミュニケーションをとりながら業務を進めていた。在宅だとフェイス・トゥ・フェイスによる確認ができないので、つながりを大切にするコミュニケーションのほか、確認のルールを決めて実施するコミュニケーションも重要。在宅で場所が離れているケースではなおさらと感じる」
と、口をそろえる。
「人とテクノロジーの適材適所」
コロナ禍をきっかけに抜本的な業務改革に動き出した企業の中にはBPOを採り入れるケースが少なくない。調査会社のIDC Japan株式会社が2021年4月14日に発表した「BPOサービス市場予測2020~25年」によると、20年の市場規模は前年比3.9%増の8484億円にとどまったが、21年以降は企業の業務再編の流れが強まる影響で、20~25年の平均成長率で4.9%となり、25年の市場規模は1兆785億円になる見通しという。
市村氏は今後の方針・戦略については、こう述べた。
「コロナをきっかけに、産業構造、仕事のあり方、働く人の意識・価値観などが大きく変わり、地殻変動が起きているというのが実感。わたしたちには変化に敏感に適応してキャッチアップしながらアップデートしていく姿勢と取り組みが必要。お客様がわれわれに何を期待しているのかを知り、それに対してわれわれは何を提供できるのかということを徹底的に考えていかなければならないと考えている。
戦略としては、共創を高めていくことが重要。変化が激しい社会の中で、多様化、細分化が進むニーズに対応するには、連携しながら課題を解決しなければならない。さまざまな企業、組織と連携することをスタンスとしてやっていきたい」
市村氏は、今後のBPO市場の変化に対応するため、テクノロジーの活用に取り組んでいることを明かす。そして、「人だけ集めてということではなく、テクノロジーを含めて最適な業務をデザインして提供できるようにしたい」と、ニューノーマル時代には「人とテクノロジーの適材適所」を重視して事業を進めていくと述べた。
上原氏は、
「事業環境や働き方が大きく変わり、それに対応することがサービスの要。合理化やデジタル化でも、期待に応えた提案ができるよう、ソリューションについても整えていく」
と話した。