「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
7月12日発売の「週刊ダイヤモンド」(2021年7月17日号)の特集は、「5年後の業界地図」。コロナ禍で日本の各産業は大転換の途上にある。主要11業種の先行きを展望し、5年後の業績予測から業界内序列、再編のシナリオまで分析している。
半導体製造装置は2ケタ成長が続く
パート1では、5年後を勝ち抜ける株240銘柄を紹介している。ポストコロナの二大トレンドは、「脱炭素」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だ。JPモルガン証券の阪上亮太チーフストラテジストは、二大トレンドが「ニッポン株式会社」の追い風になる可能性を指摘。「2022年から毎年10%の増益は可能な水準で、日経平均株価は5年後に4万5000円程度の高値は見込める」と話している。
特集では5期先までの高成長が狙える株ランキング160を掲載。Sansan、メルカリ、オリエンタルランド、JTOWER、ラクスルなどが上位に入っている。また、5期先の利益に対して割安な株ランキング80には、神戸製鋼所、東洋エンジニアリング、ENEOS HD、太平洋セメント、昭和電工などが上位に並ぶ。
パート2では、11業種の「業績・再編・給料」を予測している。取り上げている業種は、半導体製造装置、ゲーム、ITサービス、電子部品、精密機器、医療機器、医薬品、小売り、不動産、自動車、民生電機。
いくつかの業界について、かいつまんで紹介しよう。半導体製造装置は、米中対立の激化がビジネスの好機となり、当面は2ケタ成長が狙えるという。東京エレクトロン、信越化学工業の5期先の営業利益は、6000億円を超えると予想している。
注目しているのが、検査装置で急成長中のレーザーテックだ。10年間で売上高は約5倍、株価は150倍以上に成長した。さらに、5期先の営業利益を19年度比で7倍以上に伸びると予想している。
「DX」の追い風が吹くITサービス業界だが、恩恵を本当に享受するのは、ひと握りの企業であり、「ご用聞き」ベンダーが不要な大淘汰時代に入る、と見ている。現在、最も勢いがあるのは、コンサルティングとシステム部門の連携を進めた野村総合研究所だ。5年後に野村総研をしのぎ、最も高い増益率になると見込まれているのがNTTデータ。また、開発・運用支援型のSCSKや特定分野に強みを持つTIS、オービック、日本オラクルなどは勝ち組に残りそうだという。
一方、富士通、NEC、日本ユニシスは顧客である事業会社のIT内製化が進めば、存在意義が問われる可能性があるという。
このほか、精密機器では、「リコーは業態転換が成功すれば再成長が見込める」、医療機器では、「オリムパス復活、エムスリーも快進撃か」といった見出しが並ぶ。
最後に民生電機にふれておこう。完全復活を遂げたソニーグループと低迷が続くパナソニック。名門電機2社の明暗の差は、5年後拡大する可能性が高いと予想している。
業界全体ではコロナ禍からの回復に加え、リモートワーク拡大に伴う白物家電特需などの追い風を受けている。だが、次第に需要が落ち着くと地力の差が出そうだ。ソニーは24年3月期に売上高が10兆円の大台に達するという予想を紹介している。かつてパナソニックが掲げた末に撤回した「10兆円」。ソニーについては、「週刊東洋経済」も今週号で、大特集を組んでいるので、併せて読めば、好調の理由がわかるだろう。
エンタメとエレキのシナジーが出たソニー
「週刊東洋経済」(2021年7月17日号)は、「ソニー 掛け算の経営」と題した特集を組んでいる。ついにエンタメとエレキのシナジーが出たというのだ。
ソニーの業績は絶好調だ。21年3月期は6つの事業のうち、米中摩擦の影響を受けた半導体事業を除く5事業が増益。保有株式の評価益258億円を上乗せし、純利益が初めて1兆円の大台を突破した。
今年4月、ソニーは63年ぶりの社名変更に踏み切った。新しい社名はソニーグループ。伝統ある「ソニー」の社名は、エレキ部門の子会社に引き継がれた。この10年でエレキ事業の売上高比率は大きく下がり、ゲーム、映画、金融などフラット化した各事業を「掛け算」していくのが、今のソニーの戦略だという。
その一例として挙げているのが、半導体とスマホとエンタメを掛け算した電気自動車「VISION-S(ビジョンエス)」だ。量産化の予定はないものの、欧州では公道での試験走行を重ねている。EVにスマホで培った技術を応用していることについて、川西泉・ソニーグループ常務AIロボティクスビジネス担当は「次世代自動車は、基本的にインターネットに接続するだろう。すると、スマホの技術がそのまま使える。
たとえば、ビジョンエスのダッシュボードにはアンドロイドOSを搭載している。当社だから難なく造れたが、これを自動車メーカーが一からやるのは大変だ」と話している。
ゲーム部門の営業利益は前年同期比43%増の3422億円と過去最高を更新した。牽引したのは7年ぶりの新しいゲーム機「プレイステーション(PS)5」だ。新ゲーム機の発売時は、製造コストが販売価格より高くなる「逆ザヤ」が生じるが、PS5は初年度に最高益を更新する快挙を成し遂げた。
さらにゲーム機本体だけでなく自社スタジオ製の人気ソフトも増え、ソフト販売、通信で対戦できるネットワークサービスも伸びた。月額850円の定額サービスの会員は4760万人と5000万人に迫る勢いだ。
音楽業界でもソニーミュージックの一人勝ちがささやかれている。ビルボードジャパンが発表する2020年の年間ヒットチャートの上位10曲のうち、ソニーミュージック所属アーティストの楽曲が4曲を占めた。年間1位の「夜に駆ける」は、2人組ユニット・YOASOBIのデビュー作だ。ソニーミュージックが運営する小説投稿サイトに投稿された小説が基になったというのもユニークだ。
ほかにも、アニメ「鬼滅の刃」の主題歌を歌ったLiSAや米津玄師など、多くのヒットアーティストを輩出している。その秘訣について、「規模と総合力があるから、短期的な利益にとらわれず、多様なアーティストを発掘・育成できる」という業界関係者の声を紹介している。さらに芽が出た新人を大きく伸ばすマーケティングの力があるという。
音楽制作だけでなく、アニメ制作・配信、モバイルゲームまで幅広くエンターテインメント事業を手掛けるため、新しい掛け合わせをすることでヒットが生まれているようだ。
エレキの会社と思っていたソニーは大きく姿を変えようとしていることが、この特集からよくわかった。
週刊エコノミストはまだまだ強い米国経済&株
「週刊エコノミスト」(2021年7月20日号)の特集は、「まだまだ強い米国経済&株」。冒頭の編集部レポートは「巨額財政支出が後押しし、金利上昇は怖くない、株高続く」と結論づけている。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げのタイミングをアンケート調査している。
BNPパリバ証券と明治安田総合研究所の2社が「23年1~3月期」と最も早い時期の開始を予想。逆に第一生命経済研究所の「24年10~12月期」が最も遅く、2年近い開きがあった。実際に利上げを実現するまでには、いくつかのハードルを乗り越えなければならないという見方では共通しているという。
米国の物価上昇は持続的か、一時的かというテーマで2人の専門家が論じている。重見吉徳氏(フィデリティ投信)は、「米国はインフレで政府債務を返済する」と持続的な上昇との見方だ。これに対して、窪谷浩氏(ニッセイ基礎研究所)は、物価を押し上げたのは中古車価格、航空運賃など一部の品目に限られており、来年に向けて物価上昇圧力は緩和される可能性が高い、と見ている。
ワクチン接種が進み、経済が急回復する米国経済の今後の見通しについて、主要金融機関15社にアンケート調査している。実質GDP予想では、SMBC日興証券とバークレイズ証券が最も高い7.1%を予想。また、15社中4社が6.5%を予想している。
ドル円相場の見通しは、回答した13社がドル高(円安)の上限を110円台と予想。最もドル高(円安)を予想したのはSMBC日興証券ら6社の1ドル=115円で、逆に最もドル安(円高)を予想したのはクレディ・スイス証券の1ドル=102円だった。
好調と思われる米国経済に死角はないのか? ワクチンの有効性が十分でなく、秋以降、コロナの感染が再拡大し、経済活動が停滞するのを恐れる声もある。
もう一つの特集「経済学者 コロナとの闘い」では、「中小民間病院への高い依存と患者分散が医療逼迫を引き起こした」とする高久玲音・一橋大学経済学研究科准教授や「マーケットデザインの知見でワクチン配布の最適化はできる」という小島武仁・東京大学マーケットデザインセンター長の見解を紹介している。
医療関係者や感染学者の声ばかりがメディアを通じて「科学的」知見として流布してきたが、経済学者がコロナに対応する論拠を持っていることを知り、大いに刺激を受けた。(渡辺淳悦)