2030年時点で、最も安い電源は「太陽光発電」になるとの試算を、経済産業省がまとめた。事業用太陽光の発電コストは、8円台前半~11円台後半だった。
政府や電力業界はこれまで、最も安い電源は「原子力発電」であると訴えてきた。しかし、原発は東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえた安全対策費の増加などを反映して、前回の2015年の試算より1割程度上昇して、1キロワット時当たり「11円台後半以上」となった。原発の優位性は大きく揺らぐことになる。
消えた原発の優位性
2030年時点で、原発は決して安い電源ではなくなった。経済産業省が2021年7月12日に開いた総合資源エネルギー調査会の作業部会で、試算を示した。
試算によると、原発は1キロワット時当たり11円台後半以上かかる。2015年に公表した前回試算では10.3円以上で、「原発は最も発電費用が低い」としていた。
安全対策工事のほか、廃炉費用や福島第一原発事故の賠償などの想定費用を前回試算の9.1兆円から15.7兆円に引き上げたことでコストが増えた。
太陽光発電はパネル製造費の低減によって、事業用で8円台前半~11円台後半(前回試算12.7~15.6円)、住宅用で9円台後半~14円台前半(同12.5~16.4円)となった。
再生可能エネルギーでは、洋上風力が前回試算の30.3~34.7円から26円台前半に低下。陸上風力は13.6~21.5円から9円台後半~17円前半に安くなった。ただ、原発との比較では、なお高い。
化石燃料の電源をみると、液化天然ガス(LNG)は10円台後半~14円台前半(前回試算13.4円)となった。石炭は13円台後半~22円台前半(12.9円)だった。
太陽光発電を含む再生可能エネルギーにかかる発電コストが軒並み低下したことで、菅義偉政権が掲げる2050年の温室効果ガス(CO2)排出の実質ゼロにプラスに働きそう。しかし半面、太陽光発電パネルの設置には、森林破壊を危惧する声が少なくない。
ネットには、こんな声が寄せられていた。
「太陽光は、ビルの屋上に設置するのであれば良いと思いますが、森林を破壊して設置するのはやめていただきたいです」
「森林伐採には反対! 今から二酸化炭素吸収の国際的な取り組みで木材輸出が減る可能性があるし、日本が森林の計画的伐採で管理したほうがコストと自然環境考えた場合の利がでてくる」
「原発は高コストなのは今に始まったことではない。地元にバラまく交付金やフクシマのようになれば、事故対応で無尽蔵にコストだけがかかり、利益は生まない。とはいえ、森を伐採して作るソーラーは抑えるべき。少なくとも失われた森の効果を割り引くため、買取価格などは低くなければいけない。造成したけど売れ残っている工業用地とか、屋根とか、遊休農地などならばまだ理解できる」
と、注文をつけた。
経産省「原発はベースロード電源として重要」
さらに、
「太陽光発電は不確定要素が多過ぎだし、原子力と違って出力あたりの目先の環境破壊のレベルが違いすぎる。砂漠みたいな土地ならまだしも、山林ばかりの日本ではスケールメリット出すのは無理です」
電力供給のバランスを説く声も。
「水力発電の高効率化とか、農業ダムの発電利用とか、費用対効果の高い場所での水力発電は進めてほしい。地熱も合わせて、ベースロード電源になりうる自然エネルギーが増えれば、安定性のある原発や火力の代替にできそう」
また、夜間に発電しないなどの太陽光発電の供給の不安定さを指摘する声も少なくなかった。
今回の試算は近くまとめる予定の中長期的なエネルギー政策「エネルギー基本計画」などの前提となる。ただ、2021年7月13日付の朝日新聞によると、原発について経産省は「安定的に電力供給できる『ベースロード電源』だとして重視している」という。