神保町はすずらん通りの入口。倉田ビルの2階、窓の「軍学堂」の文字が目印だ。「軍学堂」は軍事・戦争に関する書籍を扱っている。
もともとは横浜で開業し、10年ほど前に神保町に移転した。店主の望月太郎さんに聞いた。
「艦これ」から親族の資料まで
整然と並ぶ書籍が「日清・日露」「太平洋」「戦略」などジャンルごとにインデックスで仕切られている。
広い窓からは駿河台下交差点を行き交うクルマや通行者が見える。交通の賑わいをよそに、古書店らしい物静かな店内である。店主の望月太郎さんに「近現代の戦争、軍事に関わるものなら何でも広く扱っています」と、棚を見せてもらいながら歩く。
戦術や軍艦、軍用機、軍人やスパイに関するものなど戦争・軍事に特化した選書は、私にとって物珍しく、漠然と思い描いていた大きな分野への、さまざまな切り口に驚いた。
「来られるお客さんは年齢性別問わず、さまざまです」
アニメやゲームがきっかけになってお店を訪ねる若い世代のお客さんも多いそうだ。「たとえば、漫画『ゴールデン・カムイ』で日露戦争に日本軍の軍服に興味を持たれたり、ゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』の影響で艦艇に興味を持たれたりして来られる方などもいますね」
二次元コンテンツを通して軍事に関心を抱き訪れる人もいれば、実際の体験としての戦争を知るために「軍学堂」を訪ねる人もいる。
「ご自身やそのご家族の方が資料を求めて来られることも少なくありません」
と、望月さんは話す。
「軍学堂」では連隊史など戦争資料も取り扱っている。研究者だけでなく、ご遺族の方が祖父や曾祖父の名前が載った資料や写真を探しに来店するのだ。お客さんの探していた資料を提供できたときには、喜びを感じますと、望月さんは目を細める。
2000人以上もの海軍提督の写真をまとめた、意義深い一冊
数ある商品の中でも、特に思い入れ深い1冊がある。「遙かなり帝国海軍の提督達肖像写真集 提督以外の104人も並ぶ」夏川 英二(編)だ。
約30センチ四方の大きな本で、タイトルのとおり帝国海軍、海軍将官の肖像写真を一覧にした。その数およそ2136人にもおよび、私家本として個人で出版されている。
望月さんは、
「これだけの量を写真の質にもこだわりながら収集した、編者の情熱には凄まじいものを感じます。これ以上の資料はもう出てこないんじゃないかと思うほど。自身の研究の成果を、責任を持って『形にする』ことへの意義や重みを感じます」
と感嘆する。
望月さんは、
「メディアの影響で、毎年夏になると先の戦争に興味を持ってお店に来られるお客様が増えるんですよ」
と話す。
確かに終戦記念日が近づくと戦争の物語は多く語られる。 「軍学堂」は物語だけでない、「学術」や「資料」、「誰かの過去」としての戦争の一面を見せてくれる場所として存在している。(なかざわ とも)