空席だった東京電力ホールディングス(HD)の会長に、前経済同友会代表幹事の小林喜光(こばやし・よしみつ)氏が就任した。2021年6月29日の定時株主総会で、小早川智明社長ら取締役10人を再任、小林氏ら取締役3人を新任する議案が賛成多数で可決された。
福島第一原子力発電所の事故(2011年3月)後に実質国有化された東電は、収益力の低下に加え、不祥事も相次ぐ。多くの難題が待ち受ける東電再建には、財界重鎮の小林氏といえども、苦労しそうだ。
メイン画像 キャプション 廃炉、どう進める......(写真は、東京電力・福島第一原子力発電所。出典:東京電力ホールディングス)「明」の三菱ケミカル、「暗」の東芝、みずほFG
東電の会長は、経営再建、ガバナンス(企業統治)の再構築の「要」と位置付けられる。原発事故で当事者能力が低下するなか、外部から会長を招き、企業風土の改革を進めることが、経営再建の基盤造りに不可欠ということだ。
国有化以降、企業再生のプロである弁護士の下河辺和彦氏、JFEホールディングス(HD)の数土文夫元社長、川村隆・日立製作所元社長が会長を務め、川村氏が20年6月に退任してから、会長は空席だった。
「空席は早く埋めたい、かといって誰でもできる職ではない」(経済産業省関係者)とあって、経済界で、小野寺正KDDI前会長、宗岡正二・日本製鉄前会長らの大物の名前がいくつか浮上した。
その中で、東電の筆頭株主である国の原子力損害賠償・廃炉等支援機構の運営委員として再建計画の策定に関わってきたほか、12~15年には東電の社外取締役も務めた小林氏に白刃の矢が立った。当初は小林氏も固辞したが、最終的に梶山弘志経産相も説得に乗り出し、就任が決まった。
小林氏は三菱ケミカルHD社長として、三菱系3化学の合併会社の組織見直し、働き方改革に取り組み、不採算事業にもメスを入れるなど立て直し、21年4月には外国人社長としてジョンマーク・ギルソン氏(ベルギー国籍)を就任させるなど、辣腕を振るった。
経済同友会代表幹事(2015~19年)時代も歯に衣着せぬ発言と改革姿勢には定評があり、規制改革推進会議議長のほか経済財政諮問会議の民間議員なども務め、政府の経済政策立案にかかわった。
こうした経歴から「今回は小林さんしかいなかった」(経産省筋)との評がもっぱらで、経済界などで、文字通り「火中の栗」を拾う決意をした小林氏を称賛する声が聞かれ、手腕への期待は強い。
ただ、「黒歴史」とまではいわないものの、ややグレーな経歴もある。東芝の社外取締役に2015年に就き、20年退任するまで取締役会議長や指名委員会委員長も務めたが、小林氏の後任の永山治氏(中外製薬特別顧問)が21年6月の株主総会で再任を否決されたのは記憶に新しい。
参考リンク:「株主が『ノー』前代未聞の異常事態! 東芝経営に『救世主』は現れるのか?」(J-CAST会社ウォッチ 2021年7月4日付)
20年7月の東芝株主総会での経営陣と経産省による「不当介入」が原因で、小林氏が会長退任した総会のことだけに、責任の一端を追う立場にある。
小林氏はまた、20年6月から、みずほフィナンシャルグループの社外取締役も務めるが、みずほFGはこの間、システム障害を繰り返し、役員が処分されるなど、経営体質が問われている。もちろん、一人にできることは限られているが、小林氏といえども、オールマイティであるわけではないということだ。