「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
7月5日発売の「週刊東洋経済」(2021年7月10日号)は、「『東証1部』脱落の恐怖 ガバナンス地獄 最後の審判」と題した特集を組んでいる。
東京証券取引所は、2022年4月から市場区分の変更を柱とする市場改革を行う予定だ。東証1部に代わる存在となる「プライム市場」に残るには高いハードルがある。同誌の試算によると、東証1部に上場している2163社のうち、じつに517社がプライム市場から転落する、崖っぷちに立たされているというのだ。
「プライム落ち」の可能性が高い約300社を実名報道
現在、東証には1部、2部、マザーズ、シャスダックのスタンダードとグロースの5つの市場がある。本来1部は選ばれた優良企業のための市場だが、実際には全上場企業約4000社のうち約2200社が所属する。
「プライム市場」の上場維持基準は、株主数800人以上、時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上などだ。東証1部には、流通時価総額が100億円未満の企業が約250社、流動性が低い企業も少なくない。経過措置はあるものの、甘く考えていれば、転落する恐れがある。
同誌が独自に試算し、プライム市場から落ちる可能性が高い約300社の実名を挙げている。時価総額500億円以上で転落する可能性がる企業として、ゆうちょ銀行、Zホールディングス、日本オラクル、アコム、日立物流、オリエントコーポレーションなどを挙げているので、有力企業でも安閑としておれない。
流通株式比率が30%未満の企業は、ゆうちょ銀行(9.16%)、ホウスイ(16.73%)、イオン北海道(18.65%)、日産車体(19.17%)、近鉄百貨店(20.91%)などだ。ゆうちょ銀行は親会社である日本郵政が89%もの株を保有しているため、流通株式比率が上場基準を満たせない。放出がうまくできるのか、あきらめムードもあるという。
流通時価総額が小さい企業は、アイドママーケティング(19.10億円)、キャンディル(21.41億円)、兼松サステック(22.84億円)など。
パート2では、残留をかけたさまざまな手法を紹介している。自己株消却、株式売却、株価引き上げ策などだ。当落線上にある企業を回る証券マンもいるという。
一方、これを機にプライム市場への新規上場を目指す会社もある。昇格候補の銘柄として、メルカリ、日本マクドナルドHD、ワークマン、出前館、フクダ電子などを挙げている。
さらにパート3「社外取争奪戦の幕開け」では、コーポレートガバナンス・コードの改訂で、社外取締役不足になり、争奪戦になると予想している。プライム市場の場合、取締役会の3分の1以上を社外取締役とするよう求められるからだ。「取締役会はジェンダーや国際性、職歴、年齢を含む多様性と適正規模を両立させるべき」と盛り込まれたことから、女性と外国人が引っ張りだこになっている。社外取締役の兼務や企業間の「持ち合い」も増えている実態を報じている。
社外取締役は厚遇ぶりには驚かされた。いくつかのケースで、個人名、企業名とともに報酬の実額を明らかにしている。年間6000万円超えの人もいる。業務実態に合うのか検証されるべきだろう。
コロナ禍で志願者が減った私立大学 週刊ダイヤモンドが特集
「週刊ダイヤモンド」(2021年7月10日号)の特集は、「『狙い目』と『お得さ』が激変! 入試 就職 序列 大学」。コロナ禍で変化した大学選びをレポートしている。
2021年入試の特徴として、地元志向、安全志向、「文低理高」などを挙げている。また私立大学の志願者数が激減した。大幅減として注目されたのは、早稲田大学と青山学院大学だ。早稲田大学の政治経済学部は28%、国際教養学部は37%、スポーツ科学部は48%の志願者減。青山学院大学も法学部、経営学部、国際政治学部がそろって50%だった。
今年の全般的な傾向に加えて、大掛かりな入試改革に取り組み、選抜方式を変えたのが志願者減につながったと見られる。
人気だった国際系学部の志願者がコロナ禍で軒並み減ったのも特徴だ。「新型コロナ終息が期待できる数年後を考えれば、人気が下がっている今、『とにかく受けておく』ことでチャンスは広がる」というアドバイスを紹介している。
コロナ不況による経済的理由から、私立大学専願から国公立大学との併願に切り替えるケースが増えているそうだ。しかし、3教科3科目受験を基本とする私立大入試から5教科7科目を基本とする国立大の受験対策に切り替えるのは容易ではない。でもあきらめるのは早いという。
九州大学理学部地球惑星科学科や東京外国語大学国際社会学部などの後期入試では、3教科でも受験できる。河合塾のデータでは、後期日程で国立大に合格した受験生の10人に1人近くが、3教科受験によるものだ。
パート2では、ダブル合格時の進学率で難関大学の人気の実態に迫っている。たとえば、早稲田大学政治経済学部と慶應義塾大学法学部にダブル合格した際の進学率は、71%対29%だ。東進ハイスクールを運営するナガセの市村秀二広報部長は「限られたサンプル数ではあるが、早稲田大学の政治経済学部が、これまで長い間かなわなかった慶應大学法学部を逆転したのは特筆すべきことだ」と強調している。
また、「GMARCH」と言われる「学習院・明治・青山学院・立教・中央・法政」に関して、「明治の強さは別格だが、立教対青山学院で、かつては立教が強かったが、青山学院が優位になるケースが出てきているのは新たな傾向」と分析している。
「就職に強いレバレッジな大学」ランキングも注目だ。入学しやすい割に有名企業への就職率が高い"お得な"大学と言える。
国公立大では、名古屋工業大学、九州工業大学、電気通信大学、横浜国立大学が上位に入った。私立大では、芝浦工業大学、豊田工業大学、東京理科大学、上智大学、同志社大学がランクイン。工業大、理系大が就職に強いことをうかがわせる。
パート3の大学院に関する記事で注目したのが、MBAを志望する社会人がビジネススクールで急増していることだ。京都大学、早稲田大学などで倍率が急伸した。理由は「コロナ特需」だという。
20代後半~30代前半の若手社会人は、リモートワークで生じた時間的余裕をスキルアップに充てるため。30代後半~40代の中堅社会人は、「コロナ禍による経営環境の悪化と雇用不安に背中を押されたケースが目立つ」という分析を紹介している。新型コロナウイルスの影響は、こんなところにも出ているのかと驚いた。
週刊エコノミストは「脱炭素の落とし穴」
「週刊エコノミスト」(2021年7月13日号)の特集は、「脱炭素の落とし穴」。突っ走って大丈夫かと警告する内容だ。
まずは電力のコスト。資源エネルギー庁の分科会で、2050年に再エネを100%導入した場合、発電コストが1キロワット時当たり現行の13円程度から53.4円と、4倍にはね上がる試算が、公益財団法人地球環境産業技術研究機構から提示され、波紋を広げている。この試算に対して、「極端だ」という指摘も出ているが、高コストをどうするかへの対応は必至だ。
ジャーナリストの川端由美氏は、自動車産業への影響を報告。「欧州でエンジン車廃止の動きが加速している。50年のカーボンニュートラルを掲げた日本で、基幹産業の自動車が最大の岐路に立つ」として、EVシフトの遅れを指摘している。
欧米の自動車メーカーでは今、デジタル空間でクルマを作り、その中で自動運転をシミュレーションする開発の流れが進行しているそうだ。日本メーカーにもデジタル化の流れはあるものの投資が遅れていると指摘している。 佐藤一光・東京経済大学准教授は「再エネ、森林整備も一気に 脱炭素の速度は米国の倍」という中国の動きを紹介している。太陽光パネルの生産は7割が中国に集中。「途上国も先進国も、中国産の発電機を使うか中国産の部品を使わなければ生産できない日が来るかもしれない」と書いている。
脱炭素の実現には、電源構成も通常の火力発電所依存から、再エネ、アンモニア・水素火力発電、原子力発電への転換が求められるがが、本橋恵一・Energy Shift編集マネージャーは「原発はもはや基幹電源ではない。安易な期待は弊害だらけ」と警告している。
30年の電源構成で原子力を20%にするためには、約20基の再稼働が必要だが、現状は遠く及ばない、としている。稼働しているのはわずか10基。再稼働が進まないのは東電柏崎刈羽原発における、IDカード不正使用、その後の設備故障に対する不適切な対応など、一連の問題だ。東電だけでなく、原発そのものに対する信頼が大きく損なわれた、と批判している。菅首相が掲げた2050年カーボンニュートラルの実現には、早くも赤信号が点灯しているようだ。(渡辺淳悦)