週刊エコノミストは「脱炭素の落とし穴」
「週刊エコノミスト」(2021年7月13日号)の特集は、「脱炭素の落とし穴」。突っ走って大丈夫かと警告する内容だ。
まずは電力のコスト。資源エネルギー庁の分科会で、2050年に再エネを100%導入した場合、発電コストが1キロワット時当たり現行の13円程度から53.4円と、4倍にはね上がる試算が、公益財団法人地球環境産業技術研究機構から提示され、波紋を広げている。この試算に対して、「極端だ」という指摘も出ているが、高コストをどうするかへの対応は必至だ。
ジャーナリストの川端由美氏は、自動車産業への影響を報告。「欧州でエンジン車廃止の動きが加速している。50年のカーボンニュートラルを掲げた日本で、基幹産業の自動車が最大の岐路に立つ」として、EVシフトの遅れを指摘している。
欧米の自動車メーカーでは今、デジタル空間でクルマを作り、その中で自動運転をシミュレーションする開発の流れが進行しているそうだ。日本メーカーにもデジタル化の流れはあるものの投資が遅れていると指摘している。 佐藤一光・東京経済大学准教授は「再エネ、森林整備も一気に 脱炭素の速度は米国の倍」という中国の動きを紹介している。太陽光パネルの生産は7割が中国に集中。「途上国も先進国も、中国産の発電機を使うか中国産の部品を使わなければ生産できない日が来るかもしれない」と書いている。
脱炭素の実現には、電源構成も通常の火力発電所依存から、再エネ、アンモニア・水素火力発電、原子力発電への転換が求められるがが、本橋恵一・Energy Shift編集マネージャーは「原発はもはや基幹電源ではない。安易な期待は弊害だらけ」と警告している。
30年の電源構成で原子力を20%にするためには、約20基の再稼働が必要だが、現状は遠く及ばない、としている。稼働しているのはわずか10基。再稼働が進まないのは東電柏崎刈羽原発における、IDカード不正使用、その後の設備故障に対する不適切な対応など、一連の問題だ。東電だけでなく、原発そのものに対する信頼が大きく損なわれた、と批判している。菅首相が掲げた2050年カーボンニュートラルの実現には、早くも赤信号が点灯しているようだ。(渡辺淳悦)