地元市長たちは「歓迎したい」というが...
一方、コーツ副会長が訪れる予定の長崎市ではどうか。地元紙「長崎新聞」(7月2日付)「IOCコーツ氏 長崎訪問16日に調整 県内被爆者ら来訪に賛否」と、やはり賛否激論があることを伝える。
「コーツ副会長の長崎市訪問について、県内被爆者らの間で賛否が割れている。歓迎する声の一方、コロナ禍の来訪を疑問視する意見も聞かれる。県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長(78)は『IOCが被爆地を平和活動の中心と認識している』と評価。16日が『五輪休戦決議』の期間初日とあって『紛争をいったん停止してでも五輪を開催する、とのメッセージを発信して』と望んだ」
長崎新聞は、一方で反対論をこう報じる。
「長崎原爆被災者協議会の田中重光会長(80)は、感染拡大を理由に五輪開催自体を『強行すべきでない』とし、コーツ氏来訪も『心から歓迎できない』と否定的だ。『被爆体験を聞いてほしかったが、コロナで被爆者との懇談も難しい中、押しかけてくるように映る』と語った。県平和運動センター被爆連の川野浩一議長(81)は『長崎に来ることには敬意を払いたい』としつつ、『形式的に訪問するのではなく、核廃絶に真摯(しんし)に向き合う気持ちを持って訪れてほしい』と求めた」
また、田上富久・長崎市長は報道陣の取材にこう述べたのだった。
「広島、長崎とも多くの人に被爆地を訪問するよう呼びかけてきたので、正式に決まれば、きちんとお迎えしたい。長崎に来て、被爆者の思いや被爆の実相に触れる時間を作っていただきたい。(反対意見があることには)いろいろなご意見はあると思うが、被爆地を見ていただくのは重要なので、感染防止に気をつけながら訪問してもらい、多くの人が被爆地を訪れる流れができていってほしい」
と期待した。
一方、バッハ会長ら被爆地訪問の目的を、「ノーベル平和賞を狙っているのではないか」と指摘するのが、東京新聞(6月30日付)「『平和』掲げ五輪強行?『休戦決議』期間、バッハ会長広島訪問意向」だ。
「著書『オリンピック・マネー』があるジャーナリストの後藤逸郎氏は、『オリンピック休戦が始まる日に広島に行き、平和メッセージを発信することで、IOC会長として初のノーベル平和賞を狙っているのではないか』とみる。だが、オリンピック休戦に法的拘束力はない。中東やアフリカで今も続く戦争を終わらせることは望めそうもない。一方、2010年のバンクーバ五輪は、WHO(世界保健機関)が新型インフルエンザのパンデミック宣言をした8か月後に開かれ、2016年のリオ五輪は、ジカ熱感染が懸念された中でも開催された」
つまり、IOCは「世界平和」を標榜しながら、これまでも感染症の猛威が世界を襲っている最中に、平気で五輪を開いてきたわけだ。そして、後藤逸郎氏は東京新聞の取材にこう語っている。
「なぜコロナ禍でもびくともせず、五輪開催にムキになれるかといえば、IOCはテレビ放映権に象徴される商業主義団体だからだ。われわれと物差しが違う。日本の人が、やっとワクチン接種が始まり、冬には少し落ち着けるのかと願っている時に大規模イベントを開く。そんな姿をみて、世間はやっとその正体に気づいたと思う」