経済界で「火中の栗を拾ってくれる人」は誰だ!?
じつは、永山氏は経済人としての評価は高い。中外製薬創業者・上野十蔵の孫の夫で、同社の社長、会長としてグローバル化を推進し、ソニー(現ソニーグループ)の社外取締役なども務めた。経営の不祥事が続出して混乱が収まらない東芝には乞われて20年7月に社外取締役に就任。取締役会議長として、21年4月、英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズによる買収提案に際しては、当時の車谷暢昭(くるまたに・のぶあき)社長兼最高経営責任者(CEO)が東芝に来る直前まで同ファンド日本法人会長を務めていたことから、車谷氏の社長辞任(事実上の更迭)を主導して混乱を収めもした。
参考リンク: 「社長辞任、CVC買収断念... 混迷の東芝はどこへ行くのか!?」(J-CASTニュース 会社ウォッチ2021年4月24日付)
指名委員会委員長兼務の立場で、太田氏らの取締役候補を撤回もした。そんな永山氏であっても、株主総会で否決されたわけだ。
今回の総会前、エフィッシモは「企業統治の抜本改善」を求める声明を公表(取り締まり選任議案への賛否は明言せず)、2位株主の3Dインベストメント・パートナーズ(保有比率7.2%)は、永山氏ら社外取締役4人に即時辞任を要求し、他のいくつかの外国ファンドも永山氏らの再任に反対だったという。
さらに、機関投資家の投票行動に影響を与える米国の有力な議決権行使助言会社2社が永山氏らへの反対を推奨していた。国内の機関投資家の間では永山氏による混乱収拾を期待する声も多く、「辛うじて信任されるのでは」との事前の「票読み」情報も伝わったが、保有比率で約5割を占める外国人投資家にとどまらず、約2割を占める個人株主を含め、経営陣への不信拡大の流れは止まらなかった。
東芝は、綱川社長が取締役会議長も兼務した。新体制は、新たな監査委員会で20年の株主総会の再調査を実施するとともに、追加の取締役選任のための臨時株主総会開く方針。役員候補を決める取締役会の「指名委員会」委員長には米ファンド出身のレイモンド・セイジ氏が就いた。
会社提案の取締役の一人だが、同様に再任された他の3人の外国人取締役とともに、太田氏を含む変更前の人事案に反対意見を表明するという異例の行動に出ている。
一連の経過を踏まえれば、補充の取締役は物言う株主を含む株主の理解を得られる人物ということになる。永山氏の不幸な結末を見て、「経済界で火中の栗を拾ってくれる人を見つけるのは簡単ではない」(東芝関係者)との声が聞こえる。
最低限、2020年の株主総会の真相(当時の車谷社長の関与も含め)を解明したうえで、ガバナンスの押さえとなる人物をいかにスカウトしてくるか。さらに、車谷氏辞任で急遽社長に復帰した綱川氏に代わる「本格政権」を早期に打ち立て、新たな成長戦略を示すことこそ、最大の眼目になる。(ジャーナリスト 済田経夫)