少子高齢化による人口減少に加えて、コロナ禍に襲われた日本に、逆転のシナリオはあるのか?
企業も個人もコロナ後を生き抜くには、今までの常識を捨てて、「戦略的に縮む」ことを提言したのが、本書「コロナ後を生きる逆転戦略」である。
「コロナ後を生きる逆転戦略」(河合雅司著)文藝春秋
高付加価値ビジネスに転換しよう
著者の河合雅司さんは元産経新聞論説委員の作家・ジャーナリスト。「未来の年表」シリーズなどの著書がある。河合さんは、コロナ禍が可視化したのは、少子高齢化と人口減少に悩む数十年後の日本の姿だという。コロナ不況で多くの業種で需要が大きく減ったが、それは人口が激減した後の国内マーケットを想起させた。「われわれはコロナ禍というタイムマシーンに乗って『日本の近未来』を垣間見たのである」と書いている。
ならば、感染収束後には何をしたらいいのか。無理にV字回復を目指すのではなく、むしろ人口減少に備えた新たなビジネスモデルに転換することを勧める。
「コロナ前の生活には、もう戻れないと覚悟しよう」「労働力もインバウンドも、もう外国人には頼れない」など悲観的な見出しが並ぶ。だが、このままではダメだと気づいた今こそ、過去の成功体験を捨てる好機であり、コロナ禍を逆手にとって戦略的に未来を構築しよう、と呼び掛けている。前半は企業向け、後半は個人向けの内容になっている。
まず、企業は、「薄利多売はもうやめて高付加価値ビジネスに転換しよう」と訴える。人口減少に伴い縮小するマーケットで、企業が利益を上げる方法は2つある。1つは働き手一人当たりの生産性を上げることである。第2に、商品やサービスに他社にはないオリジナリティをつけ、付加価値を上げることだ。一人当たり営業利益の高い企業として、ワークマンやZOZOを例に挙げている。
「コロナ禍は経営者にとって好機である」とも書いている。業績が多少落ちても、コロナを口実に出来る。目先の株主対策や銀行対策にとらわれずに新しいビジネスモデルを構築するチャンスになるからだ。
逆に、コロナを「やり過ごそう」と考えている企業に未来はないという。一時的にV字回復しても、その後はつるべ落ちの人口減少とマーケットの縮小が待っているからだ。
河合さんの「未来の年表」シリーズを読み、戦慄した人は多いだろう。だが、現実は予想よりも早いペースで進んでいる。コロナ禍の影響で、2020年の出生数は87万2683人で過去最低を更新したばかりだ。このままでは、多くの業種で先細りが心配される。
戦略的に転換した富士フイルムとオリンパス
戦略的に縮むことを実践した企業の例として、富士フイルムとオリンパスを挙げている。富士フイルムは撮影という事業分野から画像診断の技術を進めて医療機器に進出し、ヘルスケア事業を展開している。またオリンパスはカメラメーカーの技術を活かし、世界一の内視鏡の会社になった。
このほかに化学メーカーに変身しようとしている大日本印刷や医療分野に進出したグンゼを挙げている。大企業だから変身が可能だったわけではない。世界シェアトップクラスの中小企業は少なくない。
いくつかの手法を提案している。「自社だけで変われないなら、M&Aや他社との連携も視野に入れよ」「稼げない事業を縮小して外注できる業務を洗い出せ」「高齢者向けの新商品を開発して海外に売っていこう」などだ。
「日本から始まる少子高齢化の波が世界中へ広がっていくことを考えると、ここに新しいビジネスの芽がある。アンチエイジング事業は盛んだが、老いとどう向き合っていくのかという技能・技術は全然足りていないからだ。他国より早く高齢化が進んでいる日本には、他国に先駆けるビジネスチャンスがあるはずなのだ」
個人はどうなるのかに関心が高い人も多いだろう。ショッキングな見出しが並ぶ。「コロナ禍を口実にした黒字リストラに気をつけよう」「コロナ禍で減った残業代は戻らず、今までのような賃金上昇は見込めない」などだ。
テレワークで働き方も変わった。SOMPOひまわり生命保険は2021年4月から、地域限定で採用した社員を転勤なしで本社へ異動させる制度をスタートさせたことを紹介している。
テレワークのまま、引っ越しも出社もない人事異動だ。地方から経営企画部や営業企画部へ移った11人は全員女性だという。
生産性向上の動きは止まらない
これとは逆に、東京の本社勤務のまま沖縄の離島へ引っ越すというケースもさまざまな業界で現実になっているそうだ。河合さんは「コロナ禍が完全に終息して昔のような日常が戻り、全社員が出社できる状態が実現したとしても、生産性向上を明確にする働き方を進めるほかないのである」と書いている。
具体的にどうすればいいのか。40代、50代、60代と年代別マネジメント計画を立てよう、と呼びかけている。たとえば、50代は、自分の資産、人脈、スキルの棚卸しをすること、生活スタイルを断捨離すること、住宅ローンの返済を終わらせることなどだ。
新しい生活様式と街づくりの項目を読み、ハタと思い当たるところがあった。「住む街を通勤の利便性で選んではいけない」とある。テレワークで地元にいる時間が増え、地元に何があり、何がないかを痛感した人も多いだろう。
まして、老後はずっと同じ街で暮らすことになる。現役時代に通勤に便利だと選択した街が住みよい街である保証はどこにもない。さまざまな「住みたい街」ランキングが発表されるが、東京から30~40キロ圏内で、ある程度の規模を持つ神奈川県の厚木市などの名前が上位にあるのを見ると、すでにコロナ後を見据えた住まい選びが始まったのだろう。
個人的には70歳まで週3日働ける「マイルド就活」をしよう、という提案がもっとも納得できた。部分的に実践しているからである。コロナ禍で不安に生きている、すべての人の参考になるだろう。
「コロナ後を生きる逆転戦略」
河合雅司著
文藝春秋
924円(税込)