管義偉内閣の看板政策として2021年9月1日に発足するデジタル庁。これに先立ち6月21日には、準備を進めている内閣官房IT総合戦略室と番号制度推進室の計約350人がデジタル庁のオフィスとなる民間ビルで業務を始めた。
この民間ビルの賃料について、「高すぎるのでは」といった懸念が、さっそく囁かれている。
ヤフーのZホールディングスが「同居」するビル
デジタル庁のオフィスとなるのは、東京都千代田区紀尾井町にある複合施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」内の「紀尾井タワー」19階と20階。バブル景気を経験した世代には、「赤プリ」と呼ばれたグランドプリンスホテル赤坂があった場所、と説明したほうがわかりやすいかもしれない。
都心の一等地にあり、国会や自民党本部、霞が関に近い。同じビルには、ヤフーを傘下に置くZホールディングスもオフィスを構えている。
デジタル庁発足時には、ここで500人程度が勤務する予定だ。そのオフィスの賃料は年間8億8700万円、月額で計算すると7000万円を超える。IT総合戦略室が移転するまでに業務をしていた東京都港区虎ノ門の民間ビルの賃料は年間2億2400万円。虎ノ門のオフィスにはなかった大臣室や副大臣室なども設けることになり、平井卓也デジタル改革担当相は「(虎ノ門のオフィスと比べて)広さが5倍、契約額が4倍となる。
今の面積でも、「テレワークと併用しないと手狭になる」と記者会見で話している。
デジタル庁の職員500人程度のうち、120人程度は民間から任期を限って登用する予定だ。行政や民間のデジタル化を推進する司令塔機能を担う組織にするには、高度な専門知識を持つ人材が必要になるためで、幹部にも民間出身者を配置する。
民間の専門家に、政府で働いてもらう「特定任期付職員」という制度を活用する方向で、給与は月額60万~120万円程度とする方向で調整が進んでいる。
いまだに国会議員への対応は訪問・面会が基本
そもそも国の中央省庁なのだから、霞が関にある国の建物に入居すれば事は足りそうだが、そうはならない事情がある。
2012年に発足した第2次安倍晋三内閣以降、国の政策が「官邸主導」で動く傾向が顕著となり、その手足となる内閣官房や内閣府の業務量は増える一方だ。それに応じて職員が業務を行うオフィスも必要になり、2014年には首相官邸の目の前に地上15階建ての中央合同庁舎8号館が完成したが、それでも足りない、というのが政府側の考えだ。
政府全体の職員数は減少傾向にある。内閣官房や内閣府で働いているのは、財務省や経済産業省といった各省庁から出向している職員が多く、その分、各省庁のオフィスでは余裕が生じていてもおかしくない。
新型コロナウイルスの感染を抑制するため、政府は民間に対してテレワークを呼びかけているが、霞が関の役人にとって国会議員への対応は、いまだに訪問・面会が基本となっており、出勤を前提とした旧態依然たる働き方のまま。これでは中央省庁が必要とするオフィスは増える一方だ。
折しもデジタル庁が発足する9月1日は、衆議院の解散・総選挙が近づいている頃だ。与党にとっては、デジタル庁創設は選挙戦で成果としてアピールする絶好の材料になる。だが、肝心なのは「入れ物」を作ることではなく、それを使って何をするか、だ。その成果がコストに見合っているかどうかを検証するためにも、デジタル庁からは今後も目が離せない。(ジャーナリスト 白井俊郎)