開幕まで残り3週間の東京オリンピックに、またビッグトラブルが勃発した。
ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストといった米国の有力メディアが、「日本の新型コロナ感染症対策が厳しすぎる。我々を狙い撃ちにした報道の自由の侵害だ」と連名で難癖をつけてきたのだ。
「パンデミック下に開催するなんて危険だ。中止しろ」と批判した社も混じっている。IOCファミリーら「五輪貴族」顔負けの上から目線の傲慢な態度。東京五輪のコロナ対策は大丈夫なのか?
「GPSの行動管理は報道の自由の侵害だ」
突如ふってわいた米国メディアの「集団直訴」。最初に報じたのは朝日新聞(7月2日付)「『取材規制は五輪憲章違反』 米メディアが組織委に抗議」である。こう伝える。
「東京五輪・パラリンピックを取材するために海外から訪れる記者に対する行動制限について、ニューヨーク・タイムズやAP通信、ワシントン・ポストなど、米主要メディアのスポーツ部門責任者が大会組織委員会に抗議の書簡を連名で送った。規制は新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な範囲を超え、一部は『五輪憲章に反する』として見直しを求めている」
書簡は、組織委がGPSで記者の行動を追跡するとしているが、データがどのように集められ、保管されるのかが明らかにされていないと指摘。インストールを求められているスマートフォンアプリについても「機微に触れる個人情報が多く集められるが、どのように使われ、管理されるのか不明」とした。
つまり、GPSなどで記者の行動を監視することによって、ニュースソースがわかってしまう。「報道の自由」の侵害だというわけだ。
朝日新聞はこう続ける。
「また、観客への取材が禁止されることや、ワクチン接種を受けてマスクを着けていても外出について規制を受けることなども問題視。『多くは海外の記者だけを対象とし、地元の記者(編集部注:日本人記者)の移動が自由に認められている」と訴えた。そのうえで、(1)GPS追跡について明確な基準を設ける(2)アプリのセキュリティー検証の機会をメディアにも与える(3)マスクを着け、社会的な距離を保っている記者が通常の取材活動をすることが認めること――などを求めた』」
ワクチンを接種してマスクを着けているのに、日本人記者には自由に認められている取材を制限するのは不公平で、外国人記者を標的にする、行き過ぎた規制だ。これでは観客や東京都内の取材ができない。また、GPS付きのアプリがどう使われるか不安がある。報道の自由が阻害されないよう、メディア側にもアプリの使われ方を検証する機会を与えよと求めた。
書簡は6月28日付で、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長や橋本聖子・東京大会組織委員会長らに直接届けられており、10数社の新聞や通信社のスポーツ報道の責任者が署名をした。朝日新聞の取材に応じたニューヨーク・タイムズのスポーツエディター、ランディー・アーチボルド氏は、こう語った。
「新型コロナ対策の必要性は理解し、尊重する。しかし、一部の規制が過剰であり、大会を取材して報じることに影響しかねないことを伝えたかった。組織委から返答はあったものの、規制の変更は実現していない」
この報道を受けて組織委は7月2日、次のようなコメントを発表した。
「取材の自由については尊重し、可能な限り円滑に大会に関係する取材が行えるようにする所存である。他方、現下のコロナ情勢に鑑みれば、非常に厳しい措置が必要であり、すべての参加者と日本居住者のために重要なことと考えている」
「五輪貴族」同様に優遇されている報道陣
ここで、東京五輪・パラリンピックの取材について、海外メディアがどのような行動制限を受けることになっているか、おさらいしておこう。行動ルールを定めたプレイブック(第3版)「プレス」によると、7月1日以降の順守項目はこうだ。
(1)入国の際、陰性検査証明書を持参。
(2)スマートフォンに健康情報管理システムをダウンロードして、インストールする。また、スマホの位置情報(GPS)もオンにして行動がわかるようにする。
(3)入国後3日間は自室で隔離しなければならない。しかし、毎日検査して陰性であることと、GPSによる厳格な行動管理に従うことを条件に、入国日から取材活動を行ってもよい。
(4)取材先などを明記した行動計画書と、ルールに従う誓約書を提出する。また、日本滞在中の濃厚接触調査対象者リストを作成する(取材チームメンバー、ルームメイトなど)
(5)宿泊は組織委が用意したホテルなどに泊まる。移動の際は大会専用車両を使う。また入国後14日間は、公共交通機関の使用を認めない。
(6)取材に際してはマスクを着用、ソーシャルディスタンスを守る。
(7)競技以外に、観客や市中を取材することは認めない。散歩したり、観光地、ショップ、レストラン、バー、ジムなどに行ったりすることも禁止。
(8)違反した場合は、制裁措置として取材資格のはく奪、国外退去などを命じる。
などといった、一見厳しいものだ。
しかし、「抜け道」はあるもので、じつは海外メディアは「五輪貴族」といわれる「IOCファミリー」と同等の特別待遇扱いを受けているのだ。
朝日新聞(6月24日付)「五輪ファミリー『特別扱い』 個室なら入国後すぐ外食も」が、こう伝える。
「東京五輪のために来日するIOC委員らの行動ルールを定めた『プレイブック』で、入国後14日間以内であっても個室のある飲食店で食事をすることが認められていることが、立憲民主党のコロナ対策本部で指摘された。同党は『五輪の特別扱い』で感染が拡大しかねないとみて、見直しを要求した」
IOCと組織委は、6月15日にプレイブック第3版を公表した。表記は英語で、IOC委員や家族など「五輪ファミリー」、報道関係者らについては、できるだけホテルのルームサービスや用意された食堂を利用すると記した。ただし、利用できない場合には、コンビニなどで食べ物を買う、あるいは感染対策をした個室のあるレストランで食事を取ってもよい、としている。これでは二重基準だ。つまり、海外からの報道陣も「五輪ファミリー」と同等の扱いを受けているわけだ。
(福田和郎)