「携帯電話1個あたり、年間で3万円も安くなるのですよ」
と、にわかに言われても本気にできるだろうか!?
菅義偉政権が最重要課題に掲げる携帯電話料金の値下げ。その効果が表れたとして、総務省は2021年6月29日、携帯料金値下げ効果が4300億円に達したとの試算を発表した。
その一方で、格安スマートフォン事業者の凋落を示す調査も発表された。
ネット上では、
「政府は目先の票稼ぎのために携帯業者をいじめるより、日本の通信技術の支援に力を注ぐべきではないのか」
という腹立ちの声が起こっている。
武田大臣「国民負担の軽減は1兆円になるでしょう」
武田良太総務相の得意満面の記者会見の様子を、読売新聞(2021年6月30日付)「『ahamo』など携帯割安プラン1570万件 家計の負担減4300億円」がこう伝える。
「総務省は6月29日、携帯電話大手などが始めた割安な新料金プランの契約件数が5月末時点で、契約数全体(約1億4000万件)の約1割に相当する約1570万件にのぼったと発表した。利用者負担が年間ベースで約4300億円減ると試算している。菅内閣は携帯電話料金の値下げを看板政策に掲げており、利用者向けの対応の改善を各社に求めている。総務省が利用者を対象に行った新料金プランに関する調査では、『すでに乗り換えている』と答えた人は9.5%で、『今後乗り換えたいと考えている』と回答した人が12.8%だった」
そして、武田総務相は記者会見で、こう胸を張ったのだ。
「コロナ禍で家計の固定費負担も深刻な問題になるなか、低廉なプランに移行する気持ちになったのではないでしょうか。乗り換えたいと考えている利用者もいることから、今後、国民負担軽減は1兆円になるでしょう」
これは、1契約あたり年間3万円の負担軽減になる計算だというわけだ。
読売新聞が続ける。
「携帯大手は今年に入って相次いで割安な新プランを投入した。NTTドコモは3月、月間データ容量20ギガバイト(GB)で、1回5分以内の国内通話がかけ放題の『ahamo(アハモ、税込み2970円)』を始めた。KDDI(au)とソフトバンクも、ほぼ同水準のプランの提供を始めた。楽天モバイルは、もともと行っていたデータ使い放題に加えて、使用量に応じて料金が変動するプランを導入した。また、大手から通信回線を借りて運営している格安スマートフォン事業者(MVNO)も大手に対抗して値下げに動いている」
一方、産経新聞(6月30日付)「携帯料金の値下げ効果4300億円 総務省など調査、各社にさらなる競争促す」は、総務省の自画自賛の発表内容に、こんな疑問を投げかけている。
「一連の値下げでは大手3社のオンライン専用プランに人気が集中。3社ともほぼ横並びのサービス内容で、事業者をまたぐ乗り換えは進んでいない。通信品質で劣る格安スマホ事業者(MVNO)は低価格帯での競争に注力しており、第5世代(5G)移動通信システムで需要が高まる大容量プランの価格競争は起きなかった」
また、産経新聞はこんな問題点も指摘したのだった。
「携帯電話の料金が下がった一方で、2019年の法改正によって端末代金の値下げが制限されて、負担総額は大きく軽減されていない。割安な端末の普及など、メーカーを巻き込んだ競争活性化が求められる」
端末料金は少しも安くなっていないし、単純に総務省の都合の良い「試算」に惑わされてはいけないというわけだ。
情報弱者の高齢者たちが困るだけの政策
実際、ネット上ではこんな批判の声が相次いだ。
「携帯電話の料金が安くなることはよいのだろうが、業界筋ではIoT、5G、6G、DXなどが叫ばれている。目先の値引き合戦に走っていいのだろうか。日本の技術力の衰退が心配されている状況だ、こういう先端分野に政府がしゃしゃり出るのはいい方向ではないと思う。むしろ政府が研究開発費を『ドン!』と支援するべきじゃないのか」
「日本の支援金は数百億円規模、中国の支援金は数兆円規模と報道されている。支援も少ないから、次世代通信規格『5G』の基地局はファーウェイなど中国製に後れをとっている。日本の5G後進国は決定です。6Gで巻き返すとか言っているが、チマチマした携帯料金にばかり注力する菅政権では無理でしょう」
「携帯料金が安くなるのはいいのだろが、要は代理店を通さずにオンラインで契約する直販システムになるだけだから、代理店の閉店や合併で、代理店に頼ってきた情弱(情報弱者)な高齢者たちが困るだけのことになるのだろうね。そもそもはドコモ本体の割引を進める政策だったはずなのにね」
「1割の利用者が新料金プランに移行した計算になるのなら、約9割も恩恵を受けていないということ? この値下げの波に乗れなくて、いまだに『高い、高い』と言っている情弱さんたちをかわいそうに思う」
こうしたなか、大手3社の割安料金プランの煽りを受けて、格安スマホ業者(MVNO)の凋落が始まった。
ICT市場専門のリサーチ・コンサルティング会社のMM総研が6月24日に「独自サービス型SIM 2021年3月末は初の前年比減に」(独自サービス型SIM 21年3月末は初の前年比減に 《 プレスリリース | 株式会社MM総研》)というタイトルで、国内の格安スマホ(MVNO)の市場調査(2021年3月末時点)を発表したのだ。それによると、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの大手3社によるオンライン低料金プラン投入で、格安スマホの契約数は、2014年の統計開始以来初のマイナス成長となった=データ1参照。2021年3月末時点での回線契約数は1261万回線で、前年同期に比べて15.9%減少した。
ちなみに、シェアの1位がインターネットイニシアティブ(IIJmio・BIC SIMなどを提供)、2位がNTTコミュニケーションズ(OCNモバイルONEなど)、3位が楽天モバイル、4位がオプテージ(mineo)、5位がビッグローブ(BIGLOBE SIMなど)だった。このうち、携帯大手の傘下に入らず、孤軍奮闘している「純粋」の格安スマホ業者は、インターネットイニシアティブとオプテージくらいと言われている。
それでも格安スマホを使い続ける理由は...
こうした格安スマホの危機に、ネット上ではエールの声があがっている。フリーランスジャーナリストの山口健太氏は、こう指摘した。
「大幅減少の背景として、楽天モバイルはMVNOから自社回線への移行を進めており、UQ mobile事業はKDDIに統合された。ただし、それを差し引いてもMVNOが厳しい状況に変わりはない。MVNOの主力である1000〜2000円の価格帯では、大手のサブブランドとの競争が激しくなり、苦戦を強いられている。MVNO各社は接続料の引き下げを先取りした新料金プランを打ち出すなど、値下げ競争は続いているが、安売りには限界がある。ドコモがdポイント連携などでMVNOを支援する予定となっており、追い風になるか注目だ」
こんな声も相次いだ。
「MVNO潰しの政策が取られたのだから当然の結果。格安スマホ推奨の政策から、いきなりハシゴを外されたMVNO事業者は悲惨だよ。でも、自分は逆に格安を選んだ。外で使うことがほとんどない仕事で、ほぼすべてWifi環境なので通話ができれば十分。その通話もほとんど使わずLINEで仕事を含め連絡している。携帯なんか持っていればいいだけの人は、格安でいい。デメリットと言えば、昼とか回線が混み合う時間はどうしても遅くなりやすいことくらいかな」
「格安スマホを使い出して7、8年になる。データを使う場合は自宅のWifi前提だが月2000円なので、何十万円かは節約できた。ありがたいことだが、ドコモや楽天が安くなったので正直悩む。でも当分は格安でいこうと思う」
「僕もほぼ家にいて、家のWiFi使えばいいから夜ちょっと出るときと、月2回くらいの休日しか外で使うことはないので、格安業者の低速回線にしている」
「ahamoの登場でどうしようかと思ったけど、mineo(マイネオ)も安いプランを出してきたので移動をやめました。業界の中で切磋琢磨して利用者にメリットがあるのは歓迎です」
(福田和郎)