東京五輪・パラリンピックが2021年7月23日に開会式を迎える。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期され、いまなお世界各地で猛威を振るっている中での開催に、さまざまな議論が巻き起こっているが、アスリートの活躍には応援の声を届けたい。そう思っている人は少なくないだろう。
そんなことで、7月はオリンピックとスポーツにまつわる本を紹介しよう。
7月23日に東京オリンピックの開会式が行われると、国旗を掲げた各国の選手団が入場行進する。また、各競技の表彰式では、国旗が掲げられ、国歌が演奏される。オリンピックに反対していた人たちも、表彰式で「日の丸」が掲揚されると、拍手を送るのではないだろうか。本書「国旗・国歌・国民」を読み、そんなことを考えた。 サブタイトルは「スタジアムの熱狂と沈黙」。本書は、日本で唯一の「国歌」研究者が、国旗と国歌、そしてスポーツとの愛憎の歴史に迫った本である。
「国旗・国家・国民」(弓狩匡純著)KADOKAWA
スポーツの試合から戦争に
著者の弓狩匡純さんは、作家・ジャーナリスト。1959年生まれ。米テンプル大学教養学部卒業後、世界50か国以上を訪れ、国旗や国歌への関心を深めた。著書に「世界の国歌・国旗」、「国のうた」(いずれもKADOKAWA)、「国際理解を深める世界の国歌・国旗大事典」(くもん出版)、「社歌」(文藝春秋)などがある。
「はじめに」で、弓狩さんは、「近代スポーツは、血で血を洗う武力衝突に代わる手立て、代理戦争として発展してきた側面があります」と書いている。スポーツは国の威信を高め、愛国心を鼓舞する装置として機能してきたという。
そのため、オリンピックなどのスポーツイベントでは、国旗の掲揚、国歌の斉唱は、なくてはならない儀式となっている。ナショナリズムに翻弄された、さまざまなエピソードを披露している。
スポーツの試合が引き金になり、実際に戦争になった例もある。中南米の隣国、エルサルバドルとホンジュラスは1950年代から、国境問題、移民問題で緊張関係にあった。1969年、両国は国交を断絶、臨戦態勢に入った。そんな折、ワールドカップ・メキシコ大会の予選で両国が対戦した。
1勝1敗で迎えたプレーオフは、メキシコシティで行われた。結果は、エルサルバドルが3対2で勝利し、最終ラウンドへ進出を決めた。この結果に失望したホンジュラスでは、エルサルバドル移民に対する襲撃事件が相次ぎ、大量の移民が母国へ逃げ込む事態となった。
これを受けてホンジュラス空軍が国境監視所を爆撃、本格的な戦闘になり、両国合わせて約2000人が死亡する本当の戦争になった。