東京五輪・パラリンピックの強行に向け、菅義偉政権が新型コロナウイルス対策の決め手として始めたワクチンの職域接種が、わずか1週間で新規受付の中止に追い込まれた。
「あまりに多くの企業から申し込みが殺到して、ワクチン供給が追い付かなくなった」
というのが理由だというが......。
アクセルを踏めるだけ踏んで急ブレーキをかける。菅義偉政権の悪い癖がまたでたようだ。
「尻を叩くだけ叩いてせかされたうえ、ハシゴを外された」
という怒りの声があふれている。
イオン40万、ソフトバンク25万、NTT16万、日本郵政13万人...
菅義偉政権が鳴り物入りで始めた、新型コロナウイルスワクチンの職域接種だが、いかに規模が大きかったか。時事通信(6月21日付)「ワクチン職域接種、本格開始 申請1464万人、企業・大学が一斉に」が、こう語っている。
「ワクチンの普及加速に向けた企業や大学などによる職域接種が6月21日、本格的に始まった。政府によると、同日午後5時時点で累計3795会場、1464万人分の申請があった。コロナ禍克服へ、全国の大企業や大学のほか、中央官庁などでも一斉にスタートした」
大企業による職域接種では、イオンが年内に約40万人、ソフトバンクグループが近隣住民10万人も含めて約25万人、NTTグループが約16万人、日本郵政グループは約13万人、森ビル、セブン&アイ・ホールディングスが各約10万人、トヨタ自動車が約8万人、楽天グループが約6万人、サントリーホールディングスが約5万2000人、JR東日本が約2万2000人、全日空が約1万人、伊藤忠商事が約7500人...... といった状況。企業の多くは今秋から年内をめどに終える予定だ。
「イオンはこれまで、全国の自治体に接種会場を提供してきたが、自社でも大規模な職域接種に踏み切る。イオンモール幕張新都心(千葉市)では、従業員ら500人が次々に接種を受けた。トヨタ自動車は自社の産業医や看護師を活用し、1日最大1万人の接種を目指す。JR東日本では、運転士らを対象に接種がスタート。京浜東北線に乗務員として勤務する男性社員(41)は『安心してお客さまに接することができる』と胸をなで下ろした」
大学でも全国174校が申請し、6月21日から東北大や徳島大、慶応義塾大、関西大など17大学で、キャンパス内の会場で学生や教職員向けに開始。大半は学生が夏休みに入る7月中旬から本格化する、という順風満帆の様子だった。
それが一転、1週間も経たない6月25日に「ワクチンが足りない」と新規受付を一時休止。6月30日には正式に再開を中止する羽目に追い込まれた。いったい何があったのか――。
読売新聞(6月30日付)「職域接種、首相『予想はるかに超える申し込み』...申請再開しない方針」が、こう伝える。
「政府は6月29日、ワクチンの職域接種の申請受け付けを再開しない方針を固めた。これまでの受け付け分だけで、確保済みのワクチン量の上限を超えたためだ。新たな職域接種は事実上できなくなる。菅首相は29日、『予想をはるかに超える申し込みがあり、一度内容を精査している』と語った。政府は米モデルナ製ワクチンを9月末までに5000万回分確保している。これまでの申請分だけで、うち3300万回分を企業と大学などの職域接種に割り当てる。河野太郎・行政改革相は29日の記者会見で『モデルナは配送の限界に来ている』と述べた」
つまり、予想をはるかに上回る申し込みが殺到したため、ワクチンが足りなくなったというわけだ。
厄介なのは、市区町村による接種で使う米ファイザー製ワクチンも足りなくなりそうなことだ。ファイザー製は6月までに1億回分を確保しているのに対し、7~9月は7000万回分にとどまる。3割減ることになる。河野氏は「接種ペースを供給(配送)に合わせてもらう必要がある。ブレーキを踏むこともある」と語ったのだった。