日本企業にもチャンスがある
国連環境計画(UNEP)の報告書には、以下の興味深い一節があるという。
「繁栄がある線を越えて進むと生産・消費による環境影響が減少する」
温室効果ガスを削減するには、デカップリングのためのイノベーションが有効だ。投資家や銀行は温室効果ガスを排出し続けている投融資先の企業や政府に対し、削減を要求。自分たちの投融資を、そうしたイノベーションを起こせる企業に振り向けている。これが「ESG投資」という潮流だ。ESGとは環境(Environmental)の「E」、社会(Social)の「S」、企業統治(Governance)の「G」の頭文字をとった英語の造語だ。
一方で、環境技術やEV分野の技術で世界に先行する日本企業は数多く、重厚長大産業といわれてきた分野でも事業を切り替えて成長している会社が多い。スタートアップにもチャンスが巡ってきている。これが未来の成長産業だ、として以下のトレンドを挙げている。
■ 電力 全電力をまかなえるほどの洋上風力発電ポテンシャル
■ 交通・運輸 EV化の流れは止まらず
■ ICT産業 AI活用でデータセンター電力消費量を40%削減
■ 鉄鋼 製鉄大手でも水素と電炉へ
■ セメント 二酸化炭素排出量を70%削減するコンクリート生産法
■ 紙・パルプ 他素材から紙製へのシフト
各産業への影響を詳しく挙げている中で、最も驚かされたのは、建物・不動産への影響だ。「超高層でも鉄筋コンクリート造から木造へ」とある。
不動産は、住宅、マンション、オフィス、店舗など、あらゆる建物が対象となる。不動産建設では、鉄筋や鉄骨などの鉄材、セメント、コンクリートの生産時に排出される二酸化炭素排出量が大きいため、これらをカーボンニュートラル化していくことが求められる。根本的に鉄筋コンクリート造をあきらめ、木造建築に転換することも選択肢になるという。
住友林業は地上70階の超高層木造ビルを2041年頃に建設する「W350計画」を発表した。
中国とアメリカもそれぞれカーボンニュートラル政策を打ち出した。「SDGs」もこの文脈の中に置けば、理想論ではなく、きわめて現実的な生き残り策であることが理解できるだろう。
古い資本主義でも陰謀論でも脱資本主義でもない、「ニュー資本主義」こそが、人類に未来を切り開くという主張には説得力がある。(渡辺淳悦)
「超入門カーボンニュートラル」
夫馬賢治著
講談社
946円(税込)