日本の高齢者は幸せか? 高い経済的な不安、その原因は就労条件にあり(鷲尾香一)

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   日本の高齢者は世界的に見て、幸福なのか――。内閣府が「2020年の高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を公表した。

   この調査は5年ごとに実施されているもので、2020年は各国在住の60歳以上の個人を対象として、米国、ドイツ、スウェーデンとの比較が行われた。

  • 米国では資産運用による収入が増加しているけど……
    米国では資産運用による収入が増加しているけど……
  • 米国では資産運用による収入が増加しているけど……

預貯金を取り崩して生活する日本人

   最も気になるのは、高齢者の経済状況だろう。高齢者の主な収入源は、米国、ドイツ、スウェーデンとも「公的な年金」の比率が最も高い。ただし、その割合は低下しており、日本では前回(2015年)の70.8%から67.4%に、米国は55.0%から53.5%、ドイツが77.2%から69.9%、スウェーデンも72.6%から45.7%に低下している(ただし、スウェーデンが大きく低下したのは、「無回答」が多かったという特殊要因による)。

   一方で、日本では「仕事による収入」が23.4%→20.8%と低下している半面、「私的な年金」1.1%→1.7%、「預貯金などの引き出し」0.7%→3.1%、「財産からの収入(利子、配当、家賃収入など)」1.1%→2.1%に上昇。公的年金ではなく、預貯金などを取り崩している姿が浮き彫りになっている。

   他方、米国、ドイツ、スウェーデンとも「仕事による収入」は減少しているものの、米国では「預貯金などの引き出し」が2.8%→3.1%に増加するとともに、「財産からの収入」が3.5%→7.8%と大きく増加しており、資産運用による収入が増加していることがわかる。

   1か月当たりの収入の平均額では、日本が前回の21万7000円から25万7000円と4万円も増加しているが、米国では27万5000円→38万7000円と11万2000円の増加、ドイツでは24万7000円→29万6000円と4万9000円の増加、スウェーデンでは31万5000円→36万9000円と5万4000円の増加となっており、日本の平均収入額が最も低い。

   なお、米国が大きく増加しているのは、「無回答」が多かったという特殊要因による。

   日々の暮らしについては、日本では「少し困っている」が16.7%→25.3%増加したことで、「困っている」を合わせると22.6%→33.8%と大きく増加。高齢者の3人に1人が「困っている」と感じていることになる。

   これに対して、米国では「少し困っている」と「困っている」の合計が31.5%→22.1%に大きく低下し、「困っていない」が36.3%→55.0%と大きく増加している。一方、ドイツとスウェーデンには、大きな変化はみられない。

貯蓄や資産の満足度「十分だと思う」のは3割

   老後の経済生活に対する備えでは、「50歳代までに老後の経済生活に備えて特にしていたこと」を調査すると、日本では「預貯金」が46.6%→54.6%、「債券・株式の保有、投資信託」が7.1%→13.5%と増加していており、老後への備えをした割合が増えている。

   米国では、「預貯金」が56.7%→62.7%、「債券・株式の保有、投資信託」も33.2%→52.2%と増加しているが、「不動産取得(賃貸収入を得るための不動産の取得等)」が15.9%→23.1%と大きく増加している。ドイツも「不動産取得」が21.4%→29.8と増加。さらに、「預貯金」が56.9%→59.3%、「個人年金への加入」が15.7%→21.4%に増加している。

   一方で、スウェーデンでは、「預貯金」は29.7%→42.4%と増加する半面、「個人年金への加入」は56.7%→48.8%、「債券・株式の保有、投資信託」は40.5%→32.5%、「不動産取得」も6.8%→4.7%に減少している。

   しかし、最も特徴的なのは、米国では「老後も働いて収入が得られるように職業能力を高める」が13.8%→27.1%と大きく増加しており、日本の6.4%→12.7%やドイツの8.0%11.9%、スウェーデンの3.2%→1.3%を大きく上回っていることだろう。

   老後の備えとして、現在の貯蓄や資産が満足度では、日本が「十分だと思う」と「まあ十分だと思う」の合計が37.4%→33.8%なのに対して、米国では68.8%→67.1%、ドイツでは66.3%→64.4%、スウェーデンでは72.7%→61.9%と、いずれも減ってはいるものの、日本を大きく上回っている。

   生活水準をどの程度に考えるかという基準が曖昧だが、それでも日本の高齢者は老後に対して大きな不安を感じている姿が明確に表れている。

   その要因の一つが高齢者の就労状況だが、日本では「パートタイム・臨時の被雇用者」が 15.2%なのに対して、米国は6.6%、ドイツ5.8%、スウェーデン4.8%と低く、半面、「フルタイムの被雇用者」は日本7.2%に対して、米国8.9%、ドイツ14.1%、スウェーデン12.6%と高いことが考えられる。

   このように経済的な側面だけを取ってみれば、日本の高齢者は経済的不安を抱えており、生活に困っていると感じている人が多く、その一因として高齢者の非正規雇用比率が高いことがあることがわかる。

   政府は、高齢者と女性の活用を大々的に打ち出し推進している以上、雇用関係の改善に向けた施策を進めていく必要がありそうだ。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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