新型コロナウイルスの感染拡大で景気が悪化するなか、消費減税の議論が活発になっている。野党の間で公約に掲げる動きが加速。今秋の衆議院選挙での争点に浮上してきたのだ。
すでに、れいわ新選組や共産党、国民民主党が消費減税を主張、日本維新の会も経済の立て直しには時限的な減税が必要だとして検討に入った。
そんななかで注目されるのが、野党第一党の立憲民主党の動きだ。枝野幸男代表が「5%への減税」を打ち出し、消費減税を旗印に野党の大連立が始まるのかと期待が高まったが、立憲民主お得意の「お家騒動」が足を引っ張っている。
何とかならないのか、この党は!
自著では「消費減税」に反対していた枝野代表
「消費減税」に関する立憲民主党の混乱状況が続いている。主な原因は枝野幸男代表の煮え切らない姿勢にあるようだ。
毎日新聞(6月21日付)「立憲、消費税減税で迷走『公約ではなく...』代表発言に党内反発」が、こう伝える。
「次期衆院選に向け、立憲民主党が消費税の扱いをめぐって揺れている。枝野幸男代表は6月15日の衆院本会議で、『消費税率の5%への時限的な減税を目指していく』と表明。消費減税に慎重だった従来の立場を転換したかに見えた。だが、本会議直後、記者団に『選挙公約ではなくて、政権として実現する』と発言した」
この発言にあわてたのが周囲の党幹部たちだった。毎日新聞がこう続ける。
「(衆院選の経済政策を担当する)江田憲司代表代行は翌16日の会見で『代表が本会議場の正式な場で言ったのだから、当然、政権公約に反映させる』と主張したが、福山哲郎幹事長は同日の会見で、次期衆院選で政権を取っても当面は衆参で多数派が異なる『ねじれ』が続くとして『すぐに実現できず、選挙公約にはなりにくい』と江田氏の見解を否定した」
この福山幹事長の発言が、火に油を注ぐ結果となった。
「この説明には党内から『政権を取っても実現しない可能性があると言ったら、何も公約で言えなくなる』(ベテラン議員)などと批判が噴出した。結局、枝野氏は6月19日のユーチューブ番組で消費減税について『もし政権を預からせてもらったら、直ちに野党の自民、公明、維新に協力を求める。協力が得られれば、来年の通常国会で税制改正をやる』と述べて意欲を示した。だが、これにも党内からは『他党に責任を転嫁しているように見えるし、有権者にストレートに伝わらない』(関係者)とあきれる声も上がっている」
この立憲民主党の混乱ぶりに「野党共闘」もしぼみ始めた。特に消費減税を重視するれいわ新選組の幹部は、
「立憲側からのアプローチはない。立憲は消費減税を相当やりにくいのだろう。そうであれば、私たちだけでもやるだけだ」
と突っぱねるありさまだ。
こうした枝野幸男・立憲民主党代表の腰の定まらない姿勢は、経済の専門家からも厳しい批判を浴びている。
エコノミスト「野党第一党らしい責任を持て」
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、リポート「動き出した国内政局と追加経済対策」(2021年6月16日付)の中で、こう指摘する。
「野党第一党の立憲民主党の枝野代表は、次期衆院選で政権を獲得した場合に、新型コロナの経済対策として、消費税率を時限的に5%に引き下げると主張している。その他にも、年収約1000万円以下の個人を対象に所得税を実質免除し、低所得層に現金を給付する考えも示している。
コロナショックへの対応で消費税率を時限的に引き下げた例は、ドイツなどにみられる。しかし、仮に日本で消費税率を引き下げれば、簡単に元の水準に戻すことが難しいことは、今までの税率引き上げの長い歴史を見れば誰の目にも明らかだ。
それは、すでに相当脆弱な日本の税収基盤を一段と損ねてしまう。消費税率1%あたり2.8兆円の税収に相当するから、5%引き下げられれば、年間14兆円もの大幅な税収減となる。その分を国債発行で賄えば、国債発行残高の増加ペースは一段と高まり、また歳出削減で賄えば、社会保障サービスが急激に悪化する」
さらにこう批判する。
「消費税率の時限的引き下げはかなり問題がある。そもそも枝野代表は今年5月に出版した新著『枝野ビジョン』の中で、『消費減税がコロナ禍による消費減少に対する直接的な対策になるのは、かなり難しい』と慎重姿勢を示していた。今回は、消費税率引き下げを掲げる共産、国民民主に同調することで、消費減税を衆院選で野党共闘の旗頭とする狙いがあるのだろう。しかし、野党共闘の旗頭とするのであれば、もっと責任のある主張を掲げて欲しい」
そして、枝野氏にこう呼びかけた。
「今、政府に求められるのは、適切な所得再配分だ。コロナショックで打撃を受けた企業、労働者、家計を支えるコストは誰が負担するのか、というのが重要な点だ。巨額の財政支出を国債発行で賄い続けて、コロナ対策のコストの多くを将来世代に押し付けるのは、世代間公正の観点から望ましくない。そればかりか、将来の需要を先食いして、中長期の成長期待を押し下げ、経済の潜在力を損ねてしまう。
政権交代を掲げる野党には、適切なコロナ対策の中身に加えて、コロナ対策のコストを誰が負担すべきか、という議論も中核に据えて、与党と正面からぶつかっていって欲しいところだ」
一方、木内登英氏とは逆の視点、つまり消費減税を望む多くの国民の期待を裏切るなという立場から立憲民主党を叱咤するメディアもある。
「二度も国民を裏切るつもりか」
日刊スポーツ(6月23日付)のコラム「政界地獄耳:国民の声を聴く耳を持たない立憲民主党の『目標』」(文中敬称略)が、こう糾弾した。
「また立憲民主党が寝ぼけたことを言い始めた。同党は衆院選公約に消費税率5%への時限的な減税を『目標』として盛り込む方針だ。党代表・枝野幸男は衆院本会議でコロナ対策として、消費税率5%への時限的な引き下げに言及した。国民にとってはその声が政治の世界から広がることに期待があるはずだ。ところが本会議直後に枝野は『選挙公約ではなくて、政権として実現する』とトーンダウン。この分なら選挙前には消えてなくなるのではないか。この政党は大学のゼミの議論の域を出ていない」
「党内には民主党政権の経験から『実現できないことは言わない』が刷り込まれている。立憲が都議会議員選挙で掲げる東京政策2021には『10万円以上の定額給付金の実現を目指します』などと書かれている。目指すのなら実現できなくてもいいのか。言葉遊びではなく、実現できるかの処方がない。財務省や与党の顔色を見て『どうせできないから言うのをやめておこう』がこの党の常識だ。いささか無理な政策でも有権者の期待や希望が背中を押すのではないか」
そして、こう結ぶのだった。
「枝野の本会議演説の後、立憲国対委員長・安住淳は『個人としては複雑な心境だ』と発言した。2012年、野田政権当時の財務相。自民、公明とのいわゆる3党合意の立役者の1人だが、党内の財政規律派の強いこだわりで時限減税も認めたくないのだ。党内融和が最優先、野党共闘は連合が嫌がるからできない。この党は国民の声やSOSを聴く気がない、できることしかやらない党か」
立憲民主党内の「財政規律派」とは、野田佳彦元首相らのグループのことだ。野田氏は民主党政権の首相だった2012年8月、民主・自民・公明の3党合意で消費増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案を可決成立させた。政権を取る前は、いわゆる「埋蔵金」と「事業仕分け」で消費増税をしなくて済むとマニフェスト(政権公約文書)で言っていた。結局、増税に踏み切ったわけだが、当時、野田氏は記者会見で、こう釈明したのだった。
「民主党のマニフェストになかった消費増税を行うことになって申し訳ない。負担なければ給付なし。打ち出の小槌のように、どこかからお金が湧いてくるわけではない。未来を搾取するやり方は、もう通用しない」
と、増税に理解を求めたのだった。
その後、5%だった消費税率は自民党政権下の2014年4月に8%に引き上げられた。さらに景気後退による2回の延期を経て2019年10月から10%に引き上げられている。
「法人税の減税論議は国際的に進んでいるのに...」
ネット上では、立憲民主党らが進めようとしている「消費減税」について、こんな批判があふれている。
「減税分の財源を示して、消費減税の是非を問うというのならわかるのだけど、あくまで『目標』という言い方だと、端から『できない』ことを前提にしていて、有権者を舌先三寸で騙すつもりなのではないか。こんなことでは、政権交代は夢の又夢」
「相変わらずできもしない夢物語をささやいて選挙を戦うつもりか。日本人は一度あなた方にだまされたから、二度もだまされない。ちょうど今しがた国道を立憲の街宣車ががなりたてていたが、聞いてみると与党の失政を挙げたあと、『さ~、みなさん! そろそろ政権交代しませんか?』だと。その間に何か抜けていないか。あなたたちはどういう政治をするのか。実現性はともかく、マニフェストを掲げていた以前のほうがまだましだったね」
立憲民主党の姿勢はともかく、消費税減税の議論は進めるべきだという声は多かった。
「消費税減税について真面目に議論することはよいことだ。しかし『あくまで目標』などと曖昧な表現にするのは、達成できなかった時の言い訳を今から準備しているとしか聞こえない。消費減税後でも安定した社会保障政策をどう回すのか、具体案を示さず揚げ足取りの政権批判ばかり。そんなことだから立憲は支持されないのだ」
「消費税にしても単純に何%に設定するかの問題ではなく、お金の使い方、集め方をどうデザインするか総合的に示して欲しい。どのような日本にしたいのか経済・教育・行政・司法・軍事・税務・地方自治...それらに想定される世界観を示したうえで実現に必要な費用をシミュレーション、そのうえで必要経費をいつ・どこから・どのような手法で徴収するのかを示してください。その結果として消費税率が決まると思います」
「たとえ目標であったとしても消費税減税を打ち出したこと、そのことは評価できる。だがしかし、今の消費税率10%は元はと言えば枝野さんが与党だった頃の民主党政権が突如として言い出したこと。まずは目標設定の前に国民に謝罪することが先だろう」
一方で、消費減税に反対する意見も非常に多かった。
「消費税はある意味、悪くないことですよ。お金を使える人から税金を取る。税金を払いたくなければお金を使わなければよいので、じつに公平な税制だと思う。しかし、問題は使い方、そして税の掛け方。ほとんどの国民が納得する使い方をしてくれれば税率は高くてもよいと思う。税率も日用必需品は低く、贅沢品は高く掛けてくれればさらに納得できる。この2点が実現できないから消費税に反対する論調になる。野党も減税、減税と人気取りをするが、しっかりした使い方を公約に掲げるほうがより実情に即している。10%でも有効に使うなら賛成、5%でもムダ遣いするなら反対ですよ」
「高齢化社会に向けて医療、福祉、年金の財源確保のために導入されたはずですが、医療も福祉も見に見えた向上はなく、年金も不足して支給開始年齢を実質70歳とすることが検討されています。消費税による税収は一体どこに消えているのか。そこから明らかにしてほしい。明らかにしたうえで本当に足りないならば、あえて減税する必要はありません」
最後に、消費減税の議論に法人減税の動きをからめた、こんな意見を紹介したい。
「G7首脳会議(サミット)をはじめ、最近の国際会議では法人税の減税競争の抑制が必ず議題に上がる。法人税を上げると自国企業が国際競争に負けるし、法人税が低い国外に逃げてしまうからどの国も法人税を下げたくて仕方ない。しかし、それをやると減税競争に歯止めがかからないので、国際的に最低ラインを決めようという話。法人税率を下げても、企業が儲かれば税収が増えるわけだから、そのほうがトータルで見ればプラス。高額納税者もあまり累進課税をすると国外に逃げてしまうから、同じことがいえる。いま一番ひどい扱いをされているのが、ある程度の所得があるが国外に逃げ出す余裕はない年収1000万~3000万円くらいの層。このへんからもっと税収をという考え方もあるが、頑張った人をいじめる世の中がよくなるとは思えない。結局、そのためには消費増税しかないのかな」
(福田和郎)