日本から欧米まで現在12時間以上かかる飛行時間が6時間に短縮され、タイなどアジア圏は2~3時間で日帰り出張もできる――。そんな夢を可能にする「超音速旅客機」の国際共同開発に向け、日本の官民が連携を強化することになった。
国立研究開発法人「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」は2021年6月16日、三菱重工業、川崎重工業、SUBARU(スバル)、IHI(旧石川島播磨重工業)の航空・宇宙関連メーカー4社と、一般財団法人の「日本航空機開発協会」と「日本航空宇宙工業会」の計7団体で、超音速機の国際共同開発に向けた協議会を設立したと発表した。
JAXAは国内メーカー4社や業界団体と超音速機の研究開発でこれまでも連携してきたが、協議会を設立することで、米ボーイングなどとの国際共同開発への参画を目指すという。
コンコルドが残した課題
超音速機は1976年に就航した英仏共同開発の「コンコルド」が有名だ。同機は音速(マッハ1=時速約1200キロ)の2倍に当たるマッハ2と、戦闘機並みのスピードを誇ったが、燃費の悪さと爆音の大きさなどの課題を克服できなかった。2000年には炎上墜落事故を起こし、2003年に引退した。
現在のボーイングやエアバスのジェット旅客機はマッハ0.8程度で飛行している。このため、超音速機が実現すれば「飛行時間を大幅に短縮し、航空輸送に大きな変革をもたらす」と、航空業界では期待されている。
しかし、「その実現には経済性や環境適合性の観点で技術的な課題がある」と、JAXAは認める。
技術的課題の一つは「ソニックブーム」と呼ばれる爆音だ。航空機が超音速で飛行すると、機体から発生する衝撃波が地上にもたらす瞬間的な爆音で、「コンコルドでは落雷のような音だった」という。
コンコルドはこの問題を克服できなかったため、陸地の上は超音速で飛行できず、海上のみの飛行に制限された。主に会場を飛ぶということで航路が限られたことも、コンコルドが商業的に成功しなかった一因とされる。
静かで燃費の良い超音速旅客機を開発
コンコルドの弱点の解決に向け、JAXAは「静かな超音速旅客機」の研究開発に取り組み、ソニックブームを低減させる機体の実験機をこれまでスバルと開発。スウェーデンで2015年に飛行実験を行い、「コンコルドに比べソニックブームを半減できる技術を実証した」という。
その後もJAXAはソニックブームを広範囲で低減し、国際民間航空機関(ICAO)が策定する超音速機の騒音基準を満たしうる機体設計技術の開発を進めている。
もう一つの課題は、「空気抵抗を下げて燃費を良くする技術」という。JAXAは2005年、燃費を改善した小型超音速実験機で飛行実験を豪州で行い、「コンコルドに比べ約13%空気抵抗を低減できる技術を実証した」というが、航空業界にも脱炭素化が求められるなか、さらなる経済性の向上が急務だ。
コンコルドが引退後、これまで超音速旅客機は生まれていないが、2010年代以降、ビジネスジェット機クラスの超音速旅客機の開発機運が高まっている。
「ポスト・コンコルド」の国際共同研究は米仏英独露と日本の6か国で進んでおり、2030年頃に超音速機の国際共同開発が想定されるという。JAXAは国内の航空・宇宙関連メーカーなどとともに国際共同開発に参画することを目指しており、「今回の協議会を通じて超音速機の研究開発を一体となって行い、日本の航空機産業の拡大に貢献したい」と話している。
(ジャーナリスト 白井俊郎)