人民元の「上昇」を容認しはじめた中国 これは新時代の到来か!?(志摩力男)

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   このところ人民元が強くなっています。

   人民元は事実上、米ドルとペッグ(固定相場制)に近い形で運用されており、それほど大きく動く通貨ではありません。それでも、4月初めの対ドルで6.5550ドル前後から、心理的に大きなサポートであった6.40ドルを割り込み、5月末6.3600ドル前後まで下落(人民元は上昇)しました。

   対円では年初16円前後のレベルから17.25円前後まで上昇しています。

  • 米国と中国はどうなる……
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人民元高のきっかけは一つの論文

   この人民元上昇の、一つのきっかけとなったのは2021年5月21日、中国人民銀行上海支店調査研究部の呂進中主任が、同行が発行する雑誌「中国金融」に発表した論文です。「中国は世界でも重要なコモディティ消費国として、輸入を通じて国際市場価格の影響を受けることを避けられない」と指摘。コモディティの輸入価格上昇を打ち消すため、人民元高を容認するべきだと主張しました。

   中国人民銀行関係者が人民元高を主張することは極めて異例です。これまでは輸出競争力維持のため、人民元安を志向する傾向がありました。

   その背後には、中国の大きな経済政策の転換があります。2020年5月14日の政治局常務会議において「双循環」という新しい概念が打ち出されました。それは、これまでの対外輸出中心の経済政策から、「国内の巨大な内需の優位性も十分に発揮する」ことにより、国内、国外、双方の大循環が互いに促進しあう新発展モデルを目指すと表明されたのです。

   通貨が上昇すれば、より大きな購買力を持つことだができるため、内需刺激が容易になります。インフレ時代にはより有効な手段かもしれません。

   また、5月27日に米国通商代表部(USTR)キャサリン・タイ代表と、中国側代表である劉鶴副首相がバーチャル形式ながら、初の米中閣僚級通商協議を行いました。アラスカで3月に行われた外交トップによる初の米中会談が、激しい意見の応酬となったことから、一部では交渉不調を予想する見方もありました。ところが穏当に「今後の協議に期待する」と終わったことで、人民元の安心買いが出たのかもしれません。

人民元は6.00ドルを割り込む時代が来る!

   私自身、2021年は人民元が上昇するチャンスがあると考えていました。コロナ禍を早期に克服し、高い経済成長を維持できているからです。

   しかも、金利は3%前後と、ゼロ金利に陥った多くの先進国通貨とは一線を画しています。ただ、悪化する米中関係が最大の懸念材料となります。

   米国のトランプ政権では、貿易の不均衡が対立のポイントでした。バイデン政権ではその点は大きな問題とはならないでしょう。貿易面での対立より、ウイグル問題など、政治的な正しさをめぐる戦いとなります。

   また、中国が内需刺激を目指す新しい政策の時代に入ったからといって、輸出がどんなに不利になっても構わないと思っているわけでもありません。あくまで、内需・外需の双方の循環を大切にするという体制です。

   その意味では、現下の人民元のレベル(6.36ドル前後)は短期的に売られすぎ(ドル売られすぎ)だと思われます。いったん戻したところを丁寧に売るというスタンスが良さそうです。最終的に、人民元は6.20ドル、そしてやがては6.00ドルを割り込む時代もくるでしょう。

   対円では17.50円突破が目標となります。じつは2018年初頭の高値は17.50円であり、そこを突破すると大きなダブルボトムが完成することになります。ザクッとした計算ですが、バブルボトムのそこは14.50円台なので、ダブルボトムのターゲットは20円前後となります。(志摩力男)

志摩力男(しま・りきお)
トレーダー
慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券など大手金融機関でプロップトレーダー、その後香港でマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現役トレーダーとして活躍中。
最近はトレーディング以外にも、メルマガやセミナー、講演会などで個人投資家をサポートする活動を開始。週刊東洋経済やマネーポストなど、ビジネス・マネー関連メディアにも寄稿する。
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